のぼり【上り/登り/昇り】例文一覧 43件

  1. ・・・日本人はその声を聞くが早いか、一股に二三段ずつ、薄暗い梯子を駈け上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。 戸は直ぐに開きました。が、日本人が中へはいって見ると、そこには印度人の婆さんがたった一人立っているばかり、も・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・私はまた何の訳もなく砂の方に飛び上りました。そしてまた海の中にはいって行きました。如何してもじっとして待っていることが出来ないのです。 妹の頭は幾度も水の中に沈みました。時には沈み切りに沈んだのかと思うほど長く現われて来ませんでした。若・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  3. ・・・また時として登りかけた坂から、腰に縄をつけられて後ざまに引き下されるようにも思われた。そうして、一つ処にいてだんだんそこから動かれなくなるような気がしてくると、私はほとんど何の理由なしに自分で自分の境遇そのものに非常な力を出して反抗を企てた・・・<石川啄木「弓町より」青空文庫>
  4. ・・・蘆の根から這い上がって、其処らへ樹上りをする……性が魚だからね、あまり高くは不可ません。猫柳の枝なぞに、ちょんと留まって澄ましている。人の跫音がするとね、ひっそりと、飛んで隠れるんです……この土手の名物だよ。……劫の経た奴は鳴くとさ」「・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  5. ・・・ 僕は上りもせず腰もかけず、しばらく無言で立っていた。ようやくと、「民さんのお墓に参りにきました」 切なる様は目に余ったと見え、四人とも口がきけなくなってしまった。……やがてお父さんが、「それでもまア一寸御飯を済して往ったら・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・「三四尺の火尾を曳いて弓形に登り、わが散兵線上に数個破裂した時などは、青白い光が広がって昼の様であった。それに照らされては、隠れる陰がない。おまけに、そこから敵の砲塁までは小川もなく、樹木もなく、あった畑の黍は、敵が旅順要塞に退却の際、・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  7. ・・・当時の成上りの田舎侍どもが郷里の糟糠の妻を忘れた新らしい婢妾は権妻と称されて紳士の一資格となり、権妻を度々取換えれば取換えるほど人に羨まれもしたし自らも誇りとした。 こういう道義的アナーキズム時代における人の品行は時代の背景を斟酌して考・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・すると、隣の国から、人が今度のご縁談について探りにきたといううわさが、すぐにその国の人々の口に上りましたから、さっそく御殿にも聞こえました。「どうしても、あの、美しい姫を、自分の嫁にもらわなければならぬ。」と、皇子は望んでいられるやさき・・・<小川未明「赤い姫と黒い皇子」青空文庫>
  9. ・・・そうして懐手をしたまま、「お上り。」と一言言って、頤を杓った。 頤で杓った所には、猿階子が掛っていて、上り框からすぐ二階へ上がるようになっている。私は古草鞋や古下駄の蹈返された土間に迷々していると、上さんがまた、「お上り。」・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  10. ・・・ 子供は為方なしに、泣く泣く空から下がっている綱を猿のように登り始めました。子供の姿は段々高くなると一緒に段々小さくなりました。とうとう雲の中に隠れてしまいました。 みんなは口を明いて、呆れたように空の方を見ていました。 そうす・・・<小山内薫「梨の実」青空文庫>
  11. ・・・私を送って行った足で上りこむなり、もう嫌味たっぷりに、――高津神社の境内にある安井稲荷は安井さんといって、お産の神さんだのに、この子の母親は安井さんのすぐ傍で生みながら、産の病で死んでしまったとは、何と因果なことか……と、わざとらしく私の生・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  12. ・・・髪の毛は段々と脱落ち、地体が黒い膚の色は蒼褪めて黄味さえ帯び、顔の腫脹に皮が釣れて耳の後で罅裂れ、そこに蛆が蠢き、脚は水腫に脹上り、脚絆の合目からぶよぶよの肉が大きく食出し、全身むくみ上って宛然小牛のよう。今日一日太陽に晒されたら、これがま・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13. ・・・ 彼は帳場に上り込んで「実は妻が田舎に病人が出来て帰ってるもんだから、二三日置いて貰いたい」と頼んだ。が、主人は、彼等の様子の尋常で無さそうなのを看て取って、暑中休暇で室も明いてるだろうのに、空間が無いと云ってきっぱりと断った。併しもう・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・と引受けて立上りましたが、直ぐ台所へ廻って如何したらよいかと私に相談します。私は引受けた以上は病人のために医師を探してやるのが当然でもあり、またこれが最後となっては心残りだからと言って、弟を出してやりました。 陰うつな暫時が過ぎてゆきま・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  15. ・・・ いつものように、彼は木登りをしようとする。――できない。人の裾を目がけて跳びかかる。――異う。爪を研ごうとする。――なんにもない。おそらく彼はこんなことを何度もやってみるにちがいない。そのたびにだんだん今の自分が昔の自分と異うことに気・・・<梶井基次郎「愛撫」青空文庫>
  16. ・・・草苅りの子の一人二人、心豊かに馬を歩ませて、節面白く唄い連れたるが、今しも端山の裾を登り行きぬ。 荻の湖の波はいと静かなり。嵐の誘う木葉舟の、島隠れ行く影もほの見ゆ。折しも松の風を払って、妙なる琴の音は二階の一間に起りぬ。新たに来たる離・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  17. ・・・てと呼びかけられ、待つはずの吉次、敵にでも追われて逃げるような心持ちになり、衣服を着るさえあわただしく、お絹お常の首のみ水より現われて白銀の波をかき分け陸へと游ぐをちょっと見やりしのみ、途をかえて堤へ上り左右に繁る萱の間を足ばやに八幡宮の方・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  18. ・・・……峰に上りてわかめや生ひたると見候へば、さにてはなくて蕨のみ並び立ちたり。谷に下りて、あまのりや生ひたると尋ぬれば、あやまりてや見るらん、芹のみ茂りふしたり。古郷の事、はるかに思ひ忘れて候ひつるに、今此のあまのりを見候て、よし無き心おもひ・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  19. ・・・彼は、丘を登りしなに、必ず、パンか、乾麺麭か、砂糖かを新聞紙に包んで持っていた。それは兵卒に配給すべきものの一部をこっそり取っておいたものだった。彼は、それを持って丘を登り、そして丘を向うへ下った。 三十分ほどたつと、彼は手ぶらで、悄然・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  20. ・・・     ○ 顔も大きいが身体も大きくゆったりとしている上に、職人上りとは誰にも見せぬふさふさとした頤鬚上髭頬髯を無遠慮に生やしているので、なかなか立派に見える中村が、客座にどっしりと構えて鷹揚にまださほどは居ぬ蚊を吾家から・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  21. ・・・ 眼下の線路を玩具のような客車が上りになっているこっちへ上ってくるのが見えた。疲れきったようなバシュバシュという音がきこえる。時々寒い朝の呼吸のような白い煙を円くはきながら。       * その暮れ方、土工夫らはいつものように・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  22. ・・・の上へ篠を束ねて降る驟雨酌する女がオヤ失礼と軽く出るに俊雄はただもじもじと箸も取らずお銚子の代り目と出て行く後影を見澄まし洗濯はこの間と怪しげなる薄鼠色の栗のきんとんを一ツ頬張ったるが関の山、梯子段を登り来る足音の早いに驚いてあわてて嚥み下・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  23. ・・・觀世善九郎という人が鼓を打ちますと、台所の銅壺の蓋がかたりと持上り、或は屋根の瓦がばら/\/\と落ちたという、それが為瓦胴という銘が下りたという事を申しますが、この七兵衞という人は至って無慾な人でございます。只宅にばかり居まして伎の事のみを・・・<著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三「梅若七兵衞」青空文庫>
  24. ・・・片隅へ身を寄せて、上り框のところへ手をつき乍ら、何か低い声で物を言出した時は、自分は直にその男の用事を看て取った。聞いて見ると越後の方から出て来たもので、都にある親戚をたよりに尋ねて行くという。はるばるの長旅、ここまでは辿り着いたが、途中で・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  25. ・・・そうするとウイリイはすぐに生きかえって、今までのウイリイとはちがって、まぶしいほど美しい男になって起き上りました。王さまはそれをごらんになって、じぶんもそういうふうに若く美しくなりたいとお思いになり、「では、わしも一度死んで生きかえりた・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  26. ・・・小猫などは、折さえあると夜昼かまわずスバーの膝にとび上り心持よさそうに丸まって、彼女が柔かい指で背中や頸を撫で撫で寝かしつけて呉れるのを、何より嬉しそうにします。 スバーは、此他もう少し高等な生きものの中にも一人の仲間を持っていました。・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  27. ・・・二階から降りて行って梯子段の上り口から小声で佐吉さんを呼び、「あんな出鱈目を言ってはいけないよ。僕が顔を出されなくなるじゃないか。」そう口を尖らせて不服を言うと、佐吉さんはにこにこ笑い、「誰も本気に聞いちゃ居ません。始めから嘘だと思・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  28. 一 山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木の電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、千駄谷の田畝をてくてくと歩いていく男がある。この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘の深い田畝道に古い長靴を引きずっていくし・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  29. ・・・二十余年の昔、ヴェスヴィアスに登った時にも火口丘の上り口で「税」をとられた。その時はこの税の意味を考えたが遂に分からなかった。この峰の茶屋の税もやはり不思議な税の一つである。あとで聞くとこれは箱根土地株式会社の作った道路で専用道路だからとの・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  30. ・・・ 会場の楽屋で、菜ッ葉服の胸をはだけ、両手を椅子の背中へたらしたかっこうにこしかけている長野は、一とめみてたち上りもしなかった。長野は演説するとき、かならず菜ッ葉服を着るが、そのときは興ざめたように、中途でかえってしまった。前座には深水・・・<徳永直「白い道」青空文庫>