の‐やま【野山】例文一覧 20件

  1. ・・・…… 遠山の桜に髣髴たる色であるから、花の盛には相違ないが、野山にも、公園にも、数の植わった邸町にも、土地一統が、桜の名所として知った場所に、その方角に当っては、一所として空に映るまで花の多い処はない。……霞の滝、かくれ沼、浮城、もの語・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  2. ・・・「何しろ、水ものには違えねえだ。野山の狐鼬なら、面が白いか、黄色ずら。青蛙のような色で、疣々が立って、はあ、嘴が尖って、もずくのように毛が下った。」「そうだ、そうだ。それでやっと思いつけた。絵に描いた河童そっくりだ。」 と、なぜ・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  3. ・・・また汗の目に、野山の赤いまで暑かった。洪水には荒れても、稲葉の色、青菜の影ばかりはあろうと思うのに、あの勝山とは、まるで方角が違うものを、右も左も、泥の乾いた煙草畑で、喘ぐ息さえ舌に辛い。 祖母が縫ってくれた鞄代用の更紗の袋を、斜っかい・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  4. ・・・見霽の野山の中に一つある。一方が広々とした刈田との境に、垣根もあったらしいが、竹も塀もこわれごわれで、朽ちた杭ばかり一本、せめて案山子にでも化けたそうに灰色に残って、尾花が、ぼうと消えそうに、しかし陽を満々と吸って、あ、あ、長閑な欠伸でも出・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  5. ・・・つれの家内が持って遣ろうというのだけれど、二十か、三十そこそこで双方容子が好いのだと野山の景色にもなろうもの……紫末濃でも小桜縅でも何でもない。茶縞の布子と来て、菫、げんげにも恥かしい。……第一そこらにひらひらしている蝶々の袖に対しても、果・・・<泉鏡花「若菜のうち」青空文庫>
  6. ・・・ 亡霊の妄想を続ける根気も尽き、野山への散歩も廃めて、彼は喘ぐような一日一日を送って行った。ともすると自然の懐ろは偉大だとか、自然が美しいとかいって、それが自分とどうしたとかいうでもない、埒もない感想に耽りたがる自分の性癖が、今さらに厭・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  7. ・・・その麓に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。 私は眼を溪の方の眺めへ移し・・・<梶井基次郎「蒼穹」青空文庫>
  8. ・・・二人で画板を携え野山を写生して歩いたことも幾度か知れない。 間もなく自分も志村も中学校に入ることとなり、故郷の村落を離れて、県の中央なる某町に寄留することとなった。中学に入っても二人は画を書くことを何よりの楽にして、以前と同じく相伴うて・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  9. ・・・ 僕は野山を駆け暮らして、わが幸福なる七年を送った。叔父の家は丘のふもとにあり、近郊には樹林多く、川あり泉あり池あり、そしてほど遠からぬ所に瀬戸内内海の入江がある。山にも野にも林にも谷にも海にも川にも、僕は不自由をしなかったのである。・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  10. ・・・ 十五、六人の人数と十頭の犬で広い野山谷々を駆けまわる鹿を打つとはすこぶるむずかしい事のようであるが、元が崎であるから山も谷も海にかぎられていて鹿とてもさまで自由自在に逃げまわることはできない、また人里の方へは、すっかり、高い壁が石で築・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  11. ・・・ 自動車がくねくね電光型に曲折しながら山をのぼるにつれて、野山が闇の空を明るくするほど真白に雪に覆われているのがわかって来た。「寒いのね。こんなに寒いと思わなかったわ。東京では、もうセル着て歩いているひとだってあるのよ。」運転手にま・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  12. ・・・私は尚も言葉をつづけて、私、考えますに葛の葉の如く、この雪女郎のお嫁が懐妊し、そのお腹をいためて生んだ子があったとしたなら、そうして子供が成長して、雪の降る季節になれば、雪の野山、母をあこがれ歩くものとしたなら、この物語、世界の人、ことごと・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  13. ・・・○もとをただせば、野山のすすきか。○あたりまえの人になりたい努力。○所詮は、言葉だ。やっぱり、言葉だ。すべては、言葉だ。○KR女史に、耳環を贈る約束。○人の子には、ひとつの顔しか無かった。○性慾を憎む。○明日。・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  14. ・・・あたしは、もう十年も津軽から離れていたので、津軽の春はワンステップでやって来るという事を、すっかり忘れていて、あんなに野山一めんに深く積っている雪がみんな消えてしまうのには、五月いっぱいかかるのじゃないかしらと思っていたの。それが、まあ、ね・・・<太宰治「春の枯葉」青空文庫>
  15. ・・・また自然の野山に黙って咲く草木の花のように、ありとあらゆる美しい事、善い事が併立して行かれないからと言って、そのためにこの世をはかなんで遁世の志をいだくというわけでもない。 宣伝が理想的に行なわれて天下を風靡する心配がないからこそ世に宣・・・<寺田寅彦「神田を散歩して」青空文庫>
  16. ・・・ 雑草といえば、野山に自生する草で何かの薬にならぬものはまれである。いつか朝日グラフにいろいろな草の写真とその草の薬効とが満載されているのを見て実に不思議な気がした。大概の草は何かの薬であり、薬でない草を捜すほうが骨が折れそうに見えるの・・・<寺田寅彦「災難雑考」青空文庫>
  17. ・・・本当の野山をいくら捜してもない樹木の配置、木と木との組み合わせ等を狭い都会の空地に故意とらしく造るより、自然の一隅で偶然出会って忘られない印象を与えられた風景の再現を目標として、工夫を凝すなら凝したい。 茶道の名人達は、その感情を深く味・・・<宮本百合子「素朴な庭」青空文庫>
  18. ・・・田舎らしい単純と、避暑地のもつ軽快な華美とが見えない宙で溶け合って、一種の氛囲気を作っている此処では、人間の楽しい魂が、何時も花の咲く野山や、ホテルの白い水楼で古風なワルツを踊っているような気がする。 濃碧の湖には笑を乗せて軽舸が浮く。・・・<宮本百合子「追慕」青空文庫>
  19. ・・・ 私が今斯うやって、双眼に涙を泛べながら、思いに沈んで居る時、遠い海を越え、野山を踰えた彼方の彼方の何処かにも、矢張り、私と同じ恐れと愛に慄えながら、彼等の「祖国」を思う人は無いだろうか。 我が友よ。我が愛する友よ。厳粛に心を鎮めて・・・<宮本百合子「無題」青空文庫>
  20. ・・・そこで定右衛門と林助とで、亀蔵を坊主にして、高野山に登らせることにした。二人が剃髪した亀蔵を三浦坂まで送って別れたのが二月十九日の事である。亀蔵はその時茶の弁慶縞の木綿綿入を着て、木綿帯を締め、藍の股引を穿いて、脚絆を当てていた。懐中には一・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>