のんびり例文一覧 30件

  1. ・・・それはまたどこかの庭鳥がのんびりと鬨を作っている中に、如何にも物ものしく聞えるのです。書生はどうしたのかと思いながら、彼女の家の前へ行って見ました。すると眉を吊り上げた彼女は、年をとった木樵りの爺さんを引き据え、ぽかぽか白髪頭を擲っているの・・・<芥川竜之介「女仙」青空文庫>
  2. ・・・つゆ空に近い人生はのんびりと育ったA中尉にはほんとうには何もわからなかった。が、水兵や機関兵の上陸したがる心もちは彼にもはっきりわかっていた。A中尉は巻煙草をふかしながら、彼等の話にまじる時にはいつもこう云う返事をしていた。「そうだろう・・・<芥川竜之介「三つの窓」青空文庫>
  3. ・・・橋杭ももう痩せて――潮入りの小川の、なだらかにのんびりと薄墨色して、瀬は愚か、流れるほどは揺れもしないのに、水に映る影は弱って、倒に宿る蘆の葉とともに蹌踉する。 が、いかに朽ちたればといって、立樹の洞でないものを、橋杭に鳥は棲むまい。馬・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  4. ・・・ 小店の障子に貼紙して、 (今日より昆布 ……のんびりとしたものだ。口上が嬉しかったが、これから漫歩というのに、こぶ巻は困る。張出しの駄菓子に並んで、笊に柿が並べてある。これなら袂にも入ろう。「あり候」に挨拶の心得で、「おか・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  5. ・・・――実は旅の事欠けに、半紙に不自由をしたので、帳場へ通じて取寄せようか、買いに遣ろうかとも思ったが、式のごとき大まかさの、のんびりさの旅館であるから、北国一の電話で、呼寄せていいつけて、買いに遣って取寄せる隙に、自分で買って来る方が手取早い・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  6. ・・・こんなに忙しく、また慌しい生活を送っていたなら、ついに死ぬまでのんびりとして、この自然を楽むことなしに、死んでしまうかも知れない。 こうしたことは、恐らく昔のある時代にはなかったことでしょう。海に、深林に、また野獣に脅かされた、其の当時・・・<小川未明「草木の暗示から」青空文庫>
  7. ・・・それに較べると、田舎は、安心して道が歩けるし、しぜん人の気持ちも、のんびりとしているのだね。」と、主人は、いいました。「そうだと思います。しかし、私の不注意から、ご心配をかけましてすみません。」「君は、おばあさんをかばおうとしたばか・・・<小川未明「空晴れて」青空文庫>
  8. ・・・ さすがに永いヤケな生活の間にも、愛着の種となっていた彼の惣領も、久しぶりで会ってみては、かねがね想像していたようにのんびりと、都会風に色も白く、艶々した風ではなかった。いかにも永い冬と戦ってきたというような萎縮けた、粗硬な表情をしてい・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  9. ・・・それも同じように間が抜けた、のんびりした顔でニタ/\と笑った。「何ンだい、あいつら笑ってやがら!」 今にも火蓋を切ろうとしていた、彼等の緊張はゆるんだ。油断をすることは出来なかった。が、このまゝ、暫らく様子を見ることにした。 ど・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  10. ・・・どんなに汚いところじゃって、のんびり手足を伸せる方がなんぼえいやら知れん。」 ふと、そこへ、その子の親達が帰りかけに顔を出した。じいさんとばあさんとは、不意打ちにうろたえて頭ばかり下げた。 清三は間が悪るそうに傍に立って見ていた。・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  11. ・・・ 前から来るのを、のんびりと待ち合せてゴトン/\と動く、あの毎日のように乗ったことのある西武電車を、自動車はせッかちにドン/\追い越した。風が頬の両側へ、音をたてゝ吹きわけて行った、その辺は皆見慣れた街並だった。 N駅に出る狭い道を・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  12. ・・・ 叔父がかず枝を連れてかえって、叔父の家に引きとり、「かず枝のやつ、宿の娘みたいに、夜寝るときは、亭主とおかみの間に蒲団ひかせて、のんびり寝ていた。おかしなやつだね。」と言って、首をちぢめて笑った。他には、何も言わなかった。 こ・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  13. ・・・主人は、本郷の大学の先生をしていらして、生れたお家もお金持ちなんだそうで、その上、奥さまのお里も、福島県の豪農とやらで、お子さんの無いせいもございましょうが、ご夫婦ともまるで子供みたいな苦労知らずの、のんびりしたところがありました。私がこの・・・<太宰治「饗応夫人」青空文庫>
  14. ・・・甲板にも、四十年配の男が、二、三人出ているが、一様にのんびり前方の島を眺め、煙草をふかしている。誰も興奮していない。興奮しているのは私だけである。島の岬に、燈台が立っている。もう、来てしまった。けれども、誰も騒がない。空は低く鼠色。雨は、も・・・<太宰治「佐渡」青空文庫>
  15. ・・・ふと見ると、すぐ傍に、脊中を丸くして縫いものしているつるが、ちゃんと坐って居るようで、とても、のんびり落ちついて、幸吉と語れなかった。ひとりで、がぶがぶ酒のんで、そのうちに、幸吉を相手にして、矢鱈に難題を吹っかけた。弱い者いじめを、はじめた・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  16. ・・・笠井さんも、気持が晴れて、部屋の入口に立ったまま、のんびり煙草をふかした。 女は、ふり向いて、「あら、いいにおい。ゆうべの、あの、外国煙草でしょ? あたし、そのにおい大好き。そのにおい逃がさないで。」雑巾を捨てて、立ち上り、素早く廊・・・<太宰治「八十八夜」青空文庫>
  17. ・・・富籤が当って、一家狂喜している様を、あるじ、あさましがり、何ほどのこともないさ、たかが千両、どれ銭湯へでも行って、のんびりして来ようか、と言い澄まして、銭湯の、湯槽にひたって、ふと気がつくと、足袋をはいていた。まさしく、私もその類であった。・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  18. ・・・ロシア映画にはもう少しのんびりした愉快な所もあるはずである。一応わかった事をどこまでも執拗にだめを押して行くのがドイツ魂であって、そのおかげで精密科学が発達するのであろう。 この種類の映画がこの方向に進歩したらおしまいにはドイツの古典音・・・<寺田寅彦「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  19. ・・・例をあげよとならば、近ごろ見たものの中では森田草平の「のんびりした話」の中にある二三の体験記録などはいかなる点でも創作であり内容的には立派な小説でもあり戯曲でもあると考えられるのである。もっとも、こういう体験記は「創作」でないという説もある・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  20. ・・・どこかのんびりしたものであったが、日本の電車ではこれが許されない。いつか須田町で乗換えたときに気まぐれに葉巻を買って吸付けたばかりに電車を棄権して日本橋まで歩いてしまった。夏目先生にその話をしたら早速その当時書いていた小説の中の点景材料に使・・・<寺田寅彦「喫煙四十年」青空文庫>
  21. ・・・しかしこのシガーの競技は可能であるのみならず、どこかに実にのんびりした超時代的の妙味があるようである。ただこの競技の審査官はいかにも御苦労千万の次第である。だれかしかるべき文学者がこの競技の光景を描いたものがあれば読んでみたいものである。・・・<寺田寅彦「記録狂時代」青空文庫>
  22. ・・・この方がのんびりして野趣がある。 市役所の庭に市民が群集している。その包囲の真中から何かしら合唱の声が聞こえる。かつて聞いた事のない唱歌のような読経のような、ゆるやかな旋律が聞こえているが何をしているか外からは見えない。一段高い台の上で・・・<寺田寅彦「高原」青空文庫>
  23. ・・・こんなのんびりした世界でさえも、自分の手でしっかり握っていない限り私有物の所有権は確定しないものと見える。してみるとやっぱり自分の腕以外にたよりになる財産はないかもしれない。 ゴルフもだんだん見ているとなかなか六かしい複雑な技術だという・・・<寺田寅彦「ゴルフ随行記」青空文庫>
  24. ・・・それからだんだんのんびりしたいかにも春らしい桃色に変りました。 まっ黒な着物を着たばけものが右左から十人ばかり大きなシャベルを持ったりきらきらするフォークをかついだりして出て来て「おキレの角はカンカンカン ばけもの麦はベラン・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  25. ・・・華やかな人間の行事にも無関心な動物の自然さで、白と黒との立派な斑牛はのんびり鼻面をもたげ主人にそびらを向け、生きていることが気持よいという風に汀に向って水を飲んでいる。 視角の高い画面の構成は、全体が闊達で、自在なこころの動きがただよっ・・・<宮本百合子「あられ笹」青空文庫>
  26. ・・・ とっておきの靴をはいて、初夏らしい帽子をかぶり手に袋など持って、のんびり散歩している。連れの男も上衣のボタン・ホールにリボンでこしらえたレーニンの肖像入りの飾りなどがついている。 小さい鈴蘭の束をさしたのもいる。 前日大群衆に・・・<宮本百合子「インターナショナルとともに」青空文庫>
  27. ・・・その晩は安心してのんびり出来るよう、朝六時までかかって私は到頭バルザックを六十八枚書き上げ、一層心持ちがよかったわけです。バルザックが卑俗であり、悪文であるということを同時代人からひどく云われたし、現代でも其は其として認めざるを得まいが、そ・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  28. ・・・何となしのんびりです。セザンヌの伝記を読んでもらい始めました。何しろ一ヵ月振りの本だから仲々面白い。でも視野が比較的狭くて歴史のモメントを深く個人の上にみないからその点は喰い足りず。赤チャンの名前が男の子はまた一苦心で、食堂のテーブルが賑わ・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  29. ・・・ ああ、一時間早く仕事をきり上げてこられると、なんというのんびりしたいい心持だろう! ニーナはつくづく思った。 日暮れが早いからニーナの室には電燈がついているが、時刻にすればまだ四時そこそこである。今日の退け時ほど工場の出入口が陽気・・・<宮本百合子「ソヴェト同盟の三月八日」青空文庫>
  30. ・・・石田は気がのんびりするような心持で、朝の空気を深く呼吸した。 石田は、縁の隅に新聞反古の上に、裏と裏とを合せて上げてあった麻裏を取って、庭に卸して、縁から降り立った。 花壇のまわりをぶらぶら歩く。庭の井戸の石畳にいつもの赤い蟹のいる・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>