はい‐きょ【廃×墟】例文一覧 21件

  1. ・・・そして夜が更けるにしたがってなんとなく廃墟に宿っているような心持を誘うのである。私の眼はその荒れ寂びた空想のなかに、恐ろしいまでに鮮やかな一つの場面を思い浮かべる。それは夜深く海の香をたてながら、澄み透った湯を溢れさせている溪傍の浴槽である・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  2. ・・・沢の奥の行きづまりには崩れかかったプールの廃墟に水馬がニンプの舞踊を踊っている。どこか泉鏡花の小説を想わせるような雰囲気を感じる。 翌日自動車で鬼押出の溶岩流を見物に出かけた。千ヶ滝から峰の茶屋への九十九折の坂道の両脇の崖を見ると、上か・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  3. ・・・夜にでもなったら古い昔のドイツ戦士の幻影がこの穴から出て来て、風雨に曝された廃墟の上を駆け廻りそうな気がした。城の後ろは切り立てたような懸崖で深く見おろす直下には真黒なキイファアの森が、青ずんだ空気の底に黙り込んでいた。「国の歴史や伝説・・・<寺田寅彦「異郷」青空文庫>
  4. ・・・溝渠の向こう側には小規模の鉄工場らしいものの廃墟がある。長い間雨ざらしになっているらしい鉄の構造物はすっかり赤さびがして、それが青いトタン屋根と美しい配合を示している。煙突なども倒れかかったままになってなんとなく荒れ果てたながめである。この・・・<寺田寅彦「写生紀行」青空文庫>
  5. ・・・     ローマから ローマへ来て累々たる廃墟の間を彷徨しています。きょうは市街を離れてアルバノの湖からロッカディパパのほうへ古い火山の跡を見に参りました。至るところの山腹にはオリーブの実が熟して、その下には羊の群れが遊・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  6. ・・・旧解剖学教室、生理学教室の廃墟には冬枯れの雑草ががらがらに干からびて哀れである。いかめしい城郭のようなライブラリーも柔らかで憂鬱な霧の薄絹に包まれている。 涙の女はゆっくりゆっくり図書館の方へ歩いて行く。しばらくして、もう一遍振返って見・・・<寺田寅彦「病院風景」青空文庫>
  7. ・・・地震か、ペストか、それともソドム、ゴモラのような神罰か、とにかく、そんなに遠くもない昔に栄えた都会が累々たる廃墟となっていて、そうして、そういうものの存在することをだれも知らないかあるいは忘れ果てていたのである。 ロプ・ノールの話や、こ・・・<寺田寅彦「ロプ・ノールその他」青空文庫>
  8. ・・・あるいは立派に建設されないうちに地震で倒された未成市街の廃墟のようなものです。 しかしながら自己本位というその時得た私の考は依然としてつづいています。否年を経るに従ってだんだん強くなります。著作的事業としては、失敗に終りましたけれども、・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  9. ・・・ こういう現実の事情で、人々のうちにある文学の種や芽は全く今日戦争後の廃墟の間にばらまかれている有様だと云えると思う。わたしたちが激しい現実を生きてゆく道で、偶然に接触するいろいろの現象を箱入り風にあらかじめ選んでゆけるわけはない。肉体・・・<宮本百合子「新しい文学の誕生」青空文庫>
  10.  かなりの復興したとはいっても、東京の街々はまだ焼あとだらけである。大きい邸跡の廃墟に石の門ばかりのこって、半ばくずれたコンクリート塀の中に夏草がしげっている。小さい道をへだてて、バラックのトタン屋根が暑い日をてりかえし、ス・・・<宮本百合子「いまわれわれのしなければならないこと」青空文庫>
  11. ・・・その大規模な歴史の廃墟のかたわらに、人民の旗を翻し、さわやかに金槌をひびかせ、全民衆の建設が進行しつつあるとはいいきれない状態にある。なぜなら、旧体制の残る力は、これを最後の機会として、これまで民衆の精神にほどこしていた目隠しの布が落ちきら・・・<宮本百合子「歌声よ、おこれ」青空文庫>
  12. ・・・やがて鉄骨だけの姿になった廃墟がうつし出されても、思い出は何と不思議だろう。その有様と私の心にある夏の夜のクリスタル・パレスの景色とは合わさって一つのものとなろうとしないのであった。〔一九三七年四月〕・・・<宮本百合子「映画」青空文庫>
  13. ・・・明るい廃墟の市の午後の街上を疾走するのは我々をのせた自動車ぎりであった。ソンムとヴェルダンとはヨーロッパ大戦を通じて最も激しい犠牲の多かった北部フランスの古戦場なのである。 ヴェルダン市の市役所のあったところ、大病院のあったところ、学校・・・<宮本百合子「女靴の跡」青空文庫>
  14. ・・・ ヴェルダン市とその周囲の山々につづく村落とはまったく廃墟となっていて、市役所の跡などはポンペイの発掘された市のとおり、土台だけが遺されている。 一望果しなく荒涼とした草原を自動車は疾駆し次第に山腹よりに近づき、ドーモンその他の砲台・・・<宮本百合子「金色の口」青空文庫>
  15. ・・・だが、彼等が、食うものがないからと云って、子供に対して非人間的な残虐に立ち到った、その心理の根底には、単なる飢えにたけりたったとはちがった、何か、云うに云えない心の廃墟があったのではなかろうか。つまりより飢えなかったとき、既に畜生道に陥る精・・・<宮本百合子「逆立ちの公・私」青空文庫>
  16. ・・・ 粘土と平ったい石片とで築かれたアラビア人の城砦の廃墟というのへ登り、風にさからって展望すると、バクーの新市街の方はヨーロッパ風の建物の尖塔や窓々で燦めいている。けれども目の下の旧市街は低い近東風の平屋根の波つづきで、平屋根の上には大小・・・<宮本百合子「石油の都バクーへ」青空文庫>
  17. ・・・列を作って、地道な蟻のように、廃墟の地ならしにとりかかりました。それにこの神々が、人間の精神まで殺し終おせたように云われたのはまるで事実とは違う間違いですね。学舎の壁は火で煤け、天井はやっと夜露を凌ぐばかりだが学者達は半片の紙、半こわれの検・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  18. ・・・窪地に廃墟が立ち、しかし樹木はこの初夏格別に美しい新緑をつけた。高低のあるこの辺の地勢は風景画への興味を動かすのである。ほんとうに、ことしの新緑の美しかったこと。地べたの中にアルカリが多くなっていたせいか、新緑は、いつもの年よりも遙かに透明・・・<宮本百合子「田端の汽車そのほか」青空文庫>
  19.  あちこちに廃墟が出来てから、東京という都会の眺望は随分かわった。小石川の白山から、坂の上にたって、鶏声ケ窪の谷間をみわたすと、段々と低くなってゆく地勢とそこに高低をもって梢を見せている緑の樹木の工合がどこかセザンヌの風景め・・・<宮本百合子「藤棚」青空文庫>
  20. ・・・天気の悪い日には、焼跡の原に向った一つの廃墟の広大な地下室の中に坐っていた。そこでは野良犬や野良猫が生きて、死んでゆき、それらの犬猫の死骸の臭いが、雨や風の音の下で漂っている。 飢えないためにゴーリキイはヴォルガへ、波止場へ出かけて行っ・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  21. ・・・などといえば、それこそ常識の範囲でも立派なものとしてうけいれられているのであるけれども、そのギリシャの彫刻にしろ、文芸復興までの暗い中世の時代には、常識がきびしい宗教の重しで窒息させられていて、たまに廃墟から現れる美しい古代の裸体像は、悪魔・・・<宮本百合子「山の彼方は」青空文庫>