はい‐ざら〔はひ‐〕【灰皿】例文一覧 17件

  1. ・・・ 戸が今西の後にしまった後、陳は灰皿に葉巻を捨てて、机の上の封書を取上げた。それは白い西洋封筒に、タイプライタアで宛名を打った、格別普通の商用書簡と、変る所のない手紙であった。しかしその手紙を手にすると同時に、陳の顔には云いようのない嫌・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・ 山川技師もにやにやしながら、長くなった葉巻の灰を灰皿の中へはたき落した。「しかも更に面白い事は――」 少佐は妙に真面目な顔をして、ちょいと語を切った。「僕はその何小二と云うやつを知っているのだ。」「知っている? これは・・・<芥川竜之介「首が落ちた話」青空文庫>
  3. ・・・本間さんは短くなったM・C・Cを、灰皿の中へ抛りこみながら、頸をまっすぐにのばして、はっきりとこう云った。「では他言しませんから、その事実と云うのを伺わせて下さい。」「よろしい。」 老紳士は一しきり濃い煙をパイプからあげながら、・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  4. ・・・粟野さんは今日も煙草の缶、灰皿、出席簿、万年糊などの整然と並んだ机の前に、パイプの煙を靡かせたまま、悠々とモリス・ルブランの探偵小説を読み耽っている。が、保吉の来たのを見ると、教科書の質問とでも思ったのか、探偵小説をとざした後、静かに彼の顔・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  5. ・・・「さ、お待遠様。」「難有い。」「灰皿――灰落しらしいわね。……廊下に台のものッて寸法にいかないし、遣手部屋というのがないんだもの、湯呑みの工面がつきやしません。……いえね、いよいよとなれば、私は借着の寸法だけれど、花柳の手拭の切・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  6. ・・・ふだん枕元に、スタンドや灰皿や紅茶茶碗や書物、原稿用紙などをごてごてと一杯散らかして、本箱や机や火鉢などに取りかこまれた蒲団のなかに寝る癖のある私には、そのがらんとした枕元の感じが、さびしくてならなかった。にわかに孤独が来た。 旅行鞄か・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  7. ・・・その緑色の風呂敷で、覆われて在る電燈の光が、部屋をやわらかく湿して、私の机も、火鉢も、インク瓶も、灰皿も、ひっそり休んでいて、私はそれらを、意地わるく冷淡に眺め渡して、へんに味気なく、煙草でも吸おうか、と蒲団に腹這いになりかけたら、また足も・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  8. ・・・ところが今の巻煙草では灰皿を叩いても手ごたえが弱く、紙の吸口を噛んでみても歯ごたえがない。尤も映画などで見ると今の人はそういう場合に吸殻で錐のように灰皿の真中をぎゅうぎゅう揉んだり、また吸殻をやけくそに床に叩きつけたりするようである。あれで・・・<寺田寅彦「喫煙四十年」青空文庫>
  9. ・・・コーヒー茶わんとか灰皿とかのこわれた代わりを買いに行っても、近ごろのものには、大概たまらなくいやだと思うような全く無益な装飾がしてあってどうにも買う気になれないのである。ネクタイがあまり古ぼけたので一つ奮発しようと思って物色しても、あのたく・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  10. ・・・ すごい顔色になって、肩ごしに灰皿をつかんでなげようとする。津田と二人で、それを止めて外へでると、小野はこんどは三吉にくってかかる。――な、青井さ、きみァボルな? え、何故だまっとるな?――。それからとつぜん、三吉の腕にもたれてシクシク・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  11. ・・・二階は三畳の間が二間、四畳半が一間、それから八畳か十畳ほどの広い座敷には、寝台、椅子、卓子を据え、壁には壁紙、窓には窓掛、畳には敷物を敷き、天井の電燈にも装飾を施し、テーブルの上にはマッチ灰皿の外に、『スタア』という雑誌のよごれたのが一冊載・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  12. ・・・マッチと埃及煙草と灰皿があった。余は埃及煙草を吹かしながら先生と話をした。けれども部屋を出て、下の食堂へ案内されるまで、余はついに先生の書斎にどんな書物がどんなに並んでいたかを知らずに過ぎた。 花やかな金文字や赤や青の背表紙が余の眼を刺・・・<夏目漱石「ケーベル先生」青空文庫>
  13. ・・・ 朝日の吸殻を、灰皿に代用している石決明貝に棄てると同時に、木村は何やら思い附いたという風で、独笑をして、側の机に十冊ばかり積み上げてある manuscrits らしいものを一抱きに抱いて、それを用箪笥の上に運んだ。 それは日出新聞・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  14. ・・・ これまで例の口の端の括弧を二重三重にして、妙な微笑を顔に湛えて、葉巻の烟を吹きながら聞いていた綾小路は、煙草の灰を灰皿に叩き落して、身を起しながら、「駄目だ」と、簡単に一言云って、煖炉を背にして立った。そしてめまぐろしく歩き廻りながら・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  15. ・・・飯を済ませて、さっき手紙を書き始めるとき、灰皿の上に置いた葉巻の呑みさしに火を附けて、北表の縁に出た。空はいつの間にか薄い灰色になっている。汽車の音がする。「蝙蝠傘張替修繕は好うがすの」と呼んで、前の往来を通るものがある。糸車のぶうんぶ・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>
  16. ・・・ 葉巻の灰が崩れそうになったので、久保田は卓に歩み寄って、灰皿に灰を落した。 卓の上に置いてある本があるので、なんだろうと思って手に取って見た。 向うの窓の方に寄せて置いてある、古い、金縁の本は、聖書かと思って開けて見ると、Di・・・<森鴎外「花子」青空文庫>
  17. ・・・渡辺は無意識に微笑をよそおってソファから起きあがって、葉巻を灰皿に投げた。女は、附いて来て戸口に立ちどまっている給仕をちょっと見返って、その目を渡辺に移した。ブリュネットの女の、褐色の、大きい目である。この目は昔たびたび見たことのある目であ・・・<森鴎外「普請中」青空文庫>