はい‐ざん【敗残】例文一覧 10件

  1. ・・・人間の哀れな敗残の跡を物語る畑も、勝ちほこった自然の領土である森林も等しなみに雪の下に埋れて行った。一夜の中に一尺も二尺も積り重なる日があった。小屋と木立だけが空と地との間にあって汚ない斑点だった。 仁右衛門はある日膝まで這入る雪の中を・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・社会的には、もう最初から私は敗残しているのである。けれども、芸術。それを言うのも亦、実に、てれくさくて、かなわぬのだが、私は痴の一念で、そいつを究明しようと思う。男子一生の業として、足りる、と私は思っている。辻音楽師には、辻音楽師の王国が在・・・<太宰治「鴎」青空文庫>
  3. ・・・ただ少数な江戸っ子の敗残者がわざわざ竹仙の染め物や伊勢由のはき物を求めることにはかない誇りを感ずるだけであろう。しかしデパートの品物に「こく」のある品のまれであることも事実である。 明治三十二年の夏、高等学校を卒業して大学にはいったので・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  4. ・・・自分はただ一人の旧世界の敗残者として新世界のただ中にほうりだされたような気がしたのである。 往来へ出て見ると、そこのラジオ屋、かしこの雑貨店の店先には道ゆく人がめいめいの用事を忘れて立ち止まり寄り集まって粗製拡声器の美しからぬ騒音に聞き・・・<寺田寅彦「野球時代」青空文庫>
  5. ・・・また「敗残の東京人」である。さればいかなる場合にも、わたくしは、有島、芥川の二氏の如く決然自殺をするような熱情家ではあるまい。数年来わたくしは宿痾に苦しめられて筆硯を廃することもたびたびである。そして疾病と老耄とはかえって人生の苦を救う方便・・・<永井荷風「正宗谷崎両氏の批評に答う」青空文庫>
  6. ・・・と嘆く一種の敗残者であったということ。しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆は「結構さん」の中に「旦那」「他人」を嗅ぎわけて、本能的な仲間はずれに扱ったということ。それらが、幼いゴーリキイの知性の目覚まされてゆく生・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  7. ・・・と嘆く一種の敗残者であったということ。しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆は「結構さん」の中に「旦那」「他人」を嗅ぎわけて、本能的に仲間はずれに扱ったということ。それらが、幼いゴーリキイの知性の目覚まされてゆく生・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」青空文庫>
  8. ・・・ ゴーリキイは、淫売婦や貧しい大学生、人生での敗残者などがごたごた棲んでいるカザンの貧民窟の一隅に、急進的な一人の学生と暮した。そこにはたった一つの寝台があるだけであった。学生とゴーリキイとは夜昼交代にそこへ寝て、ゴーリキイはヴォルガ河・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」青空文庫>
  9. ・・・ ゴーリキイは淫売婦や貧しい大学生、人生の敗残者などがごたごた詰っているカザン市の貧民窟の一隅に、或る急進的な学生と暮した。 寝台が一つしかなかった。学生とゴーリキイとは夜昼かわり番こにその寝台に眠り、朝になるとゴーリキイは「飢えな・・・<宮本百合子「逝けるマクシム・ゴーリキイ」青空文庫>
  10. ・・・また、作品の到るところに散在する敗残の美の描写も、一方にきわめて常識的な通念が人生における敗残の姿としている。それなりの形、動き、色調を、荷風もそのまま敗残の内容として自身の芸術の上に認めている。荷風にあっては、それに侮蔑の代りに歌を添える・・・<宮本百合子「歴史の落穂」青空文庫>