は・う〔はふ〕【×這う/延う】例文一覧 30件

  1. ・・・のみならず半之丞は傷だらけになり、這うようにこの町へ帰って来ました。何でも後で聞いて見れば、それは誰も手のつけられぬ盲馬だったと言うことです。 ちょうどこの大火のあった時から二三年後になるでしょう、「お」の字町の「た」の字病院へ半之丞の・・・<芥川竜之介「温泉だより」青空文庫>
  2. ・・・陳は咄嗟に床へ這うと、ノッブの下にある鍵穴から、食い入るような視線を室内へ送った。 その刹那に陳の眼の前には、永久に呪わしい光景が開けた。………… 横浜。 書記の今西は内隠しへ、房子の写真を還してしまうと、静に長椅子から立ち・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  3. ・・・軒先に垂れた簾の上には、ともし火の光を尋ねて来たのでしょう、かすかに虫の這う音が聞えています。わたしは頭を垂れたまま、じっと御話に伺い入りました。四「おれがこの島へ流されたのは、治承元年七月の始じゃ。おれは一度も成親の卿と、・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  4. ・・・ 下人は、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。 見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾・・・<芥川竜之介「羅生門」青空文庫>
  5. ・・・やがて若者は這うようにして波打際にたどりつきました。妹はそんな浅みに来ても若者におぶさりかかっていました。私は有頂天になってそこまで飛んで行きました。 飛んで行って見て驚いたのは若者の姿でした。せわしく深く気息をついて、体はつかれ切った・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  6. ・・・手を取って助けるのに、縋って這うばかりにして、辛うじて頂上へ辿ることが出来た。立処に、無熱池の水は、白き蓮華となって、水盤にふき溢れた。 ――ああ、一口、水がほしい―― 実際、信也氏は、身延山の石段で倒れたと同じ気がした、と云うので・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  7. ・・・切禿で、白い袖を着た、色白の、丸顔の、あれは、いくつぐらいだろう、這うのだから二つ三つと思う弱々しい女の子で、かさかさと衣ものの膝ずれがする。菌の領した山家である。舞台は、山伏の気が籠って、寂としている。ト、今まで、誰一人ほとんど跫音を立て・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  8. ・・・三羽の烏はわざとらしく吃驚の身振地を這う烏は、鳴く声が違うじゃろう。うむ、どうじゃ。地を這う烏は何と鳴くか。初の烏 御免なさいまし、どうぞ、御免なさいまし。紳士 ははあ、御免なさいましと鳴くか。御免なさいましと鳴くじゃな。初の烏・・・<泉鏡花「紅玉」青空文庫>
  9. ・・・あの女は羨しいと思いますと、お腹の裡で、動くのが、動くばかりでなくなって、もそもそと這うような、ものをいうような、ぐっぐっ、と巨きな鼻が息をするような、その鼻が舐めるような、舌を出すような、蒼黄色い顔――畜生――牡丹の根で気絶して、生死も知・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  10. ・・・そのでっぱなに巨大な松が七、八本、あるいは立ち、あるいは這うている。もちろん千年の色を誇っているのである。ほかはことごとく雑木でいっせいに黄葉しているが、上のほう高いところに楓樹があるらしい。木ずえの部分だけまっかに赤く見える。黄色い雲の一・・・<伊藤左千夫「河口湖」青空文庫>
  11. ・・・それが、敵に見られん様に、敵の刈り残した高黍畑の中を這う様にして前進し、一方に小山を楯にした川筋へ出た。川は水がなかったんで、その川床にずらりと並んで敵の眼を暗ました。鳥渡でも頸を突き出すと直ぐ敵弾の的になってしまう。昼間はとても出ることが・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  12. ・・・明治の酷吏伝の第一頁を飾るべき時の警視総監三島通庸は遺憾なく鉄腕を発揮して蟻の這う隙間もないまでに厳戒し、帝都の志士論客を小犬を追払うように一掃した。その時最も痛快なる芝居を打って大向うを唸らしたのは学堂尾崎行雄であった。尾崎は重なる逐客の・・・<内田魯庵「四十年前」青空文庫>
  13. ・・・うじゃうじゃと、虫が背中を這うようだった。「ほんまに私は不幸な女やと思いますわ」 朝の陽が蒼黝い女の皮膚に映えて、鼻の両脇の脂肪を温めていた。 ちらとそれを見た途端、なぜだか私はむしろ女があわれに思えた。かりに女が不幸だとしても・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  14. ・・・「這うて帰る積り……?」その足ではと停めるのを、「帰れなきゃ野宿するさ。今宮のガード下で……」「へえ……? さては十銭芸者でも買う積りやな」「十銭……? 十銭何だ?」「十銭芸者……。文士のくせに……」知らないのかという。・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  15. ・・・その日の打ち合わせを書いたほかに、僕は文楽が大好きです、ことに文三の人形はあなたにも是非見せてあげたいなどとあり、そのみみずが這うような文字で書かれた手紙が改めていやになった。それに文三とは誰だろう。そんな人形使いはいない。たぶん文五郎と栄・・・<織田作之助「天衣無縫」青空文庫>
  16. ・・・騒ぎがはじまったとたん、登勢はさすがに這うようにして千代とお良を連れて逃げたが、ふと聴えたおいごと刺せという言葉がなぜか耳について離れなかった。 あとで考えれば、それは薄菊石の顔に見覚えのある有馬という士の声らしく、乱暴者を壁に押えつけ・・・<織田作之助「螢」青空文庫>
  17. ・・・浮世の波に漂うて溺るる人を憐れとみる眼には彼を見出さんこと難かるべし、彼は波の底を這うものなれば。 紀州が小橋をかなたに渡りてより間もなく広辻に来かかりてあたりを見廻すものあり。手には小さき舷燈提げたり。舷燈の光射す口をかなたこなたと転・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  18. ・・・ところが早く這うと鉄の寝台で頭を打つ。と云って、あまり這いようがおそいと、再三繰りかえさせられる。あとで、頭にさわってみると、こぶだらけだ。 こういう兵営で二カ年間辛抱しなければならないのかと思うと、うんざりしていた。 私は、内・・・<黒島伝治「入営前後」青空文庫>
  19. ・・・のは、旅行の第一日に於て、既に旅行をいやになるほど満喫し、二日目は、旅費の殆んど全部を失っていることに気がつき、旅の風景を享楽するどころか、まことに俗な、金銭の心配だけで、へとへとになり、旅行も地獄、這うようにして女房の許に帰り、そうして女・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  20. ・・・終戦になって、何が何やら、ただへとへとに疲れて、誇張した言い方をするなら、ほとんど這うようにして栃木県の生家にたどりつき、それから三箇月間も、父母の膝下でただぼんやり癈人みたいな生活をして、そのうちに東京の、学生時代からの文学の友だちで、柳・・・<太宰治「女類」青空文庫>
  21. ・・・豪雨の一夜、郊外の泥道、這うようにして荻窪の郵便局へたどりついて一刻争う電報たのんだところ、いまはすでに時間外、規定の時を七分すぎて居ります。料金倍額いただきましょう。私はたと困惑、濡れ鼠のすがたのまま、思い設けぬこの恥辱のために満身かっか・・・<太宰治「二十世紀旗手」青空文庫>
  22. ・・・八月二十八日 晴、驟雨 朝霧が深く地を這う。草刈。百舌が来たが鳴かず。夕方の汽車で帰る頃、雷雨の先端が来た。加藤首相葬儀。八月二十九日 曇、午後雷雨 午前気象台で藤原君の渦や雲の写真を見る。八月三十日 晴・・・<寺田寅彦「震災日記より」青空文庫>
  23. ・・・苔は湿って蟹が這うている。崖からしみ出る水は美しい羊歯の葉末からしたたって下の岩のくぼみにたまり、余った水はあふれて苔の下をくぐって流れる。小さい竹柄杓が浮いたままにしずくに打たれている。自分は柄杓にかじりつくようにして、う・・・<寺田寅彦「花物語」青空文庫>
  24. ・・・ 折から軒を繞る雨の響に和して、いずくよりともなく何物か地を這うて唸り廻るような声が聞える。「ああ、あれで御座います」と婆さんが瞳を据えて小声で云う。なるほど陰気な声である。今夜はここへ寝る事にきめる。 余は例のごとく蒲団の中へ・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  25. ・・・一枚の火の、丸形に櫓を裏んで飽き足らず、横に這うてひめがきの胸先にかかる。炎は尺を計って左へ左へと延びる。たまたま一陣の風吹いて、逆に舌先を払えば、左へ行くべき鋒を転じて上に向う。旋る風なれば後ろより不意を襲う事もある。順に撫でてを馳け抜け・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  26. ・・・ 安岡は這うようにして進んだ。彼の眼をもしその時だれかが見たなら、その人はきっと飛び上がって叫んだであろう。それほど彼は熱に浮かされたような、いわば潜水服の頭についているのと同じ眼をしていた。 そして、その眼は恐るべき情景を見た。・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  27. ・・・まるで這うようなあんばいだ。鼠のようだ。どうだ、弁解のことばがあるか。」 清作はもちろん弁解のことばなどはありませんでしたし、面倒臭くなったら喧嘩してやろうとおもって、いきなり空を向いて咽喉いっぱい、「赤いしゃっぽのカンカラカンのカ・・・<宮沢賢治「かしわばやしの夜」青空文庫>
  28. ・・・ 痛さは納まりそうにないので、体の全力を両足に集めて漸く立ちあがり得た栄蔵は、体を二つに折り曲げたまま、額に深い襞をよせて這う様にして間近い我家にたどりついた。 土間に薪をそろえて居たお節は、この様子を見ると横飛びに栄蔵の傍にかけよ・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  29. ・・・地を這う小虫も麗しい五月の 地苔も皆、すぐ 体の囲りでささやかな 生を営むのだ。高く 高く 安定のない魂は寂しい。救われる道がなく寥しい。空は円く高く 地は低く凹凸を持ち人は、頭を程よい空間に保って・・・<宮本百合子「五月の空」青空文庫>
  30. ・・・留置場の時計が永い午後を這うように動いているのなどを眺めていると、焦燥に似た感じが不意に全身をとらえた。これは全然新しい経験なのであった。自分はこのような焦燥を感じさせるところにも、計画的な敵のかけひきを理解した。 六月二十日、自分は一・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>