はか‐ば【墓場】例文一覧 30件

  1. ・・・その右に墓場がある。墓場は石ばかりの山の腹にそうて開いたので、灰色をした石の間に灰色をした石塔が何本となく立っているのが、わびしい感じを起させる。草の青いのもない。立花さえもほとんど見えぬ。ただ灰色の石と灰色の墓である。その中に線香の紙がき・・・<芥川竜之介「日光小品」青空文庫>
  2. ・・・揺籃の前で道は二つに分かれ、それが松葉つなぎのように入れ違って、しまいに墓場で絶えている。二 人の世のすべての迷いはこの二つの道がさせる業である、人は一生のうちにいつかこのことに気がついて、驚いてその道を一つにすべき術を考え・・・<有島武郎「二つの道」青空文庫>
  3. ・・・中でも裏山の峰に近い、この寺の墓場の丘の頂に、一樹、榎の大木が聳えて、その梢に掛ける高燈籠が、市街の広場、辻、小路。池、沼のほとり、大川縁。一里西に遠い荒海の上からも、望めば、仰げば、佇めば、みな空に、面影に立って見えるので、名に呼んで知ら・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  4. ・・・僕はようやく少し落着いて人々と共に墓場を辞した。 僕は何にもほしくありません。御飯は勿論茶もほしくないです、このままお暇願います、明日はまた早く上りますからといって帰ろうとすると、家中で引留める。民子のお母さんはもうたまらなそうな風・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  5. ・・・ こう思うと、また、古寺の墓場のように荒廃した胸の中のにおいがして来て、そのくさい空気に、吉弥の姿が時を得顔に浮んで来る。そのなよなよした姿のほほえみが血球となって、僕の血管を循環するのか、僕は筋肉がゆるんで、がッかり疲労し、手も不断よ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  6. ・・・私は衰えきった顔して、毎日下宿の二階から、隣りの墓場を眺めて暮していたのだ。笹川は同情して、私に金を貸してくれた。その上に彼は、書きさえすれば原稿を買ってやるという雑誌まで見つけてきてくれた。こうして彼は私を鞭撻してくれたのだ。そして今また・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  7. ・・・そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。 俺はそれを見たとき、胸が衝かれるような気がした。墓場を発いて屍体を嗜む変質者のような残忍なよろこびを俺は味わった。 この溪間ではなにも俺をよろこばすものはない。鶯や四十雀も、白い日光をさ・・・<梶井基次郎「桜の樹の下には」青空文庫>
  8. ・・・この島に生れてこの島に死し、死してはあの、そら今風が鳴っている山陰の静かな墓場に眠る人々の仲間入りして、この島の土となりたいばかり。 お露を妻に持って島の者にならっせ、お前さん一人、遊んでいても島の者が一生養なって上げまさ、と六兵衛が言・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  9. ・・・窮乏せる結婚生活が恋愛の墓場であるにしても、オールドミスの孤独地獄よりはなおまさっている。ヒステリーに陥らずに、瘠我慢の朗らかさを保ち得るものが幾人あろう。<倉田百三「婦人と職業」青空文庫>
  10. ・・・その時にでも、スパイは、小うるさく、僕の背後につき纒って、墓場にまでやって来るだろう。 西山も、帰るとスパイにつき纒われる仲間の一人だ。その西山が胸を悪くしてO市から帰っていた。 彼は、もと、若手の組合員だった鍋谷や、宗保や、後・・・<黒島伝治「鍬と鎌の五月」青空文庫>
  11. ・・・私共三人は、墓場の石に腰掛けて、話した事なぞを覚えている。北村君の書いたものは、論文と云っても皆な自分の生活に交渉の深い、一種の創作であった。殊にサイコロジカルな処が、外の人達と違った特色であると思う。『鬼心非鬼心』という文章は、寺の借住居・・・<島崎藤村「北村透谷の短き一生」青空文庫>
  12. ・・・ でおかあさまは子どもを連れてそれに乗りました。船はすぐ方向をかえて、そこをはなれてしまいました。 墓場のそばを帆走って行く時、すべての鐘は鳴りましたが、それはすこしも悲しげにはひびきませんでした。 船がだんだん遠ざかってフョー・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  13. ・・・ そのひとは、それに答えず、「墓場の無い人って、哀しいわね。あたし、痩せたわ。」「どんな言葉がいいのかしら。お好きな言葉をなんでも言ってあげるよ。」「別れる、と言って。」「別れて、また逢うの?」「あの世で。」 と・・・<太宰治「フォスフォレッスセンス」青空文庫>
  14.  私は戦場から帰って、まもなくO君を田舎の町の寺に訪ねた。その時、墓場を通りぬけようとして、ふと見ると、新しい墓標に、『小林秀三之墓』という字の書いてあるのが眼についた。新仏らしく、花などがいっぱいにそこに供えてあった。・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  15. ・・・咲く花に人の集まる処を廻ったり殊更に淋しい墓場などを尋ね歩いたりする。黒田はこれを「浮世の匂」をかいで歩くのだと言っていた。一緒に歩いていると、見る物聞く物黒田が例の奇警な観察を下すのでつまらぬ物が生きて来る。途上の人は大きな小説中の人物に・・・<寺田寅彦「イタリア人」青空文庫>
  16. ・・・次に墓場が出る。墓穴のそばに突きさした鋤の柄にからすが止まると墓掘りが憎さげにそれを追う。そこへ僧侶に連れられてたった三人のさびしい葬式の一行が来る。このところにあまり新しくはないがちょっとした俳句の趣がある。 アンナ・ステンのナナが酒・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  17. ・・・その墓場からはやはりいろいろの草花が咲き出ている。 宣伝される事がらがかりに「悪い事」や「無理な事」や「危険な事」であったとしたら、その場合には結果はたいして恐るべきものではあるまいと思う。なぜと言えば、そういう宣伝は無制限に波及する気・・・<寺田寅彦「神田を散歩して」青空文庫>
  18. ・・・道ばたにところどころ土饅頭があって、そのそばに煉瓦を三尺ぐらいの高さに長方形に積んだ低い家のような形をしたものがある。墓場だと小僧が言う。 測候所では二時に来いというからそれまで近所を見てあるく。向こう側にジェスウィトの寺院がある。僧院・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  19. ・・・線香と花估るゝ事しきりに小僧幾度か箒引きずって墓場を出つ入りつ。木魚の音のポン/\たるを後に聞き朴歯の木履カラつかせて出で立つ。近辺の寺々いずこも参詣人多く花屋の店頭黄なる赤き菊蝦夷菊堆し。とある杉垣の内を覗けば立ち並ぶ墓碑苔黒き中にまだ生・・・<寺田寅彦「半日ある記」青空文庫>
  20. ・・・周囲のおおぜいの乗客はたった今墓場から出て来たような表情であるのに、この二人だけは実に生き生きとしてさも愉快そうに応答している。それが夫婦でもなくもちろん情人でもなく、きわめて平凡なるビジネスだけの関係らしく見えていて、そうしてそれがアメリ・・・<寺田寅彦「LIBER STUDIORUM」青空文庫>
  21. ・・・ わたくしはラフカヂオ・ハーンが『怪談』の中に、赤坂紀の国坂の暗夜のさま、また市ヶ谷瘤寺の墓場に藪蚊の多かった事を記した短篇のあることを忘れない。それらはいずれも東京のむかしを思起させるからである。        ○ わ・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  22. ・・・幼時に読んだ英語読本の中に「墓場」と題する一文があり、何の墓を見ても、よき夫、よき妻、よき子と書いてある、悪しき人々は何処に葬られているのであろうかという如きことがあったと記憶する。諸君も屍に鞭たないという寛大の心を以て、すべての私の過去を・・・<西田幾多郎「或教授の退職の辞」青空文庫>
  23. ・・・そこは無数の赤ん坊の放り込まれた、お前の今まで楽しんでいた墓場の、腐屍の臭よりも、もっと臭く、もっと湿っぽく、もっと陰気だろうよ。 だが、まだお前は若い。まだお前は六十までには十年ある。いいかい。まだお前は生れてから五十にしかならないん・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  24. ・・・如何に無教育の下等社会だって…………しかし貧民の身になって考て見るとこの窃盗罪の内に多少の正理が包まれて居ない事もない。墓場の鴉の腸を肥すほどの物があるなら墓場の近辺の貧民を賑わしてやるが善いじャないか。貧民いかに正直なりともおのれが飢える・・・<正岡子規「墓」青空文庫>
  25. ・・・ 現代の考えぶかい人たちは、十九世紀のロマンティストのように結婚は恋愛の墓場であるという風なものの見かたはしていないのが現実だと思う。 恋愛の感情にしろ、天を馳ける金色雲のようには見ていないと思う。もっと、私たち人間が自然に生きてゆ・・・<宮本百合子「結婚論の性格」青空文庫>
  26. ・・・魂を激しい愛――愛と云うものを理解した愛――でインスパイアしてくれるどころか、只怠いくつな寄生虫となって、無表情の顔を永遠の墓場まで並べて行かなければならない――。 其は、女性である私が考えてもぞっとする事でございます。人間として、悲し・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  27. ・・・雨が降ると、寺の低い方にある墓場で、火が燃える。夜になると雨戸のところから其が見えると、ぞくぞくすることを教えたのも、その小坊僧さんであった。 子供らにとって、新しい冒険と面白さの尽きない夏がはじまった。祖母と母も、新しい鰺を美味しがっ・・・<宮本百合子「白藤」青空文庫>
  28. ・・・これらのお化けは、いつもやぶけた提灯だの、墓場のそとうばと関係があり、そのそとうばは、昼間日のよくさしている養源寺の墓地にもやっぱりいっぱい古いのや新しいのが立っているのだった。 考えてみると、母はよくその頃、養源寺へお詣りに行った。子・・・<宮本百合子「道灌山」青空文庫>
  29. ・・・ゴーリキイは、墓場の濃い灌木の茂みの中でもたれる彼等の集りに行った。すると、彼等は波止場稼ぎの若者であるゴーリキイが「何を読んだかということを厳重に問いただした上で」彼等の研究会でゴーリキイも勉強するように決定した。そこではゴーリキイが一番・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  30. ・・・そして、裏庭を突き切って墓場の方へ馳け出すと、秋三は胸を拡げてその後から追っ馳けた。二 本堂の若者達は二人の姿が見えなくなると、彼らの争いの原因について語合いながらまた乱れた配膳を整えて飲み始めた。併し、彼らの話は、唐紙の倒・・・<横光利一「南北」青空文庫>