はく‐じつ【白日】例文一覧 28件

  1. ・・・もし彼等に声があったら、この白日の庚申薔薇は、梢にかけたヴィオロンが自ら風に歌うように、鳴りどよんだのに違いなかった。 しかしその円頂閣の窓の前には、影のごとく痩せた母蜘蛛が、寂しそうに独り蹲っていた。のみならずそれはいつまで経っても、・・・<芥川竜之介「女」青空文庫>
  2. ・・・と思うので、つまり精神的に人を殺して、何の報も受けないで、白日青天、嫌な者が自分の思いで死んでしまった後は、それこそ自由自在の身じゃでの、仕たい三昧、一人で勝手に栄耀をして、世を愉快く送ろうとか、好な芳之助と好いことをしようとか、怪しからん・・・<泉鏡花「化銀杏」青空文庫>
  3. ・・・ 遥かに瞰下す幽谷は、白日闇の別境にて、夜昼なしに靄を籠め、脚下に雨のそぼ降る如く、渓流暗に魔言を説きて、啾々たる鬼気人を襲う、その物凄さ謂わむ方なし。 まさかこことは想わざりし、老媼は恐怖の念に堪えず、魑魅魍魎隊をなして、前途に塞・・・<泉鏡花「妖僧記」青空文庫>
  4. ・・・ その記憶が私の心をかすめたとき、突然私は悟った。雲が湧き立っては消えてゆく空のなかにあったものは、見えない山のようなものでもなく、不思議な岬のようなものでもなく、なんという虚無! 白日の闇が満ち充ちているのだということを。私の眼は一時に視・・・<梶井基次郎「蒼穹」青空文庫>
  5. ・・・泥棒どもが、なお安全に、最も悪い泥棒制度を維持しようがためにやっていることを白日の下に曝す必要がある。 吾々の文学はプロレタリアートの全般的な仕事のうちの一分野である。吾々は、プロレタリアートの持つ、帝国主義××××の意志、思想を、感情・・・<黒島伝治「反戦文学論」青空文庫>
  6. ・・・細民街のぼろアパアト、黄塵白日、子らの喧噪、バケツの水もたちまちぬるむ炎熱、そのアパアトに、気の毒なヘロインが、堪えがたい焦躁に、身も世もあらず、もだえ、のたうちまわっているのである。隣の部屋からキンキン早すぎる回転の安蓄音器が、きしりわめ・・・<太宰治「音に就いて」青空文庫>
  7. ・・・その実を犇と護らなん、と呶鳴るようにして歌った自分の声が、まだ耳の底に残っているような気がする。白日夢。私は立上って、茶店のほうに歩いた。袂をさぐってみると、五十銭紙幣は、やはりちゃんと残って在る。佐伯君にも、熊本君にも欠点があります。僕に・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  8. ・・・ ひとり豆腐屋の軒下に、置き残され、私は夢みるようであった。白日夢。そんな気がした。ひどくリアリティがない。ばかげた話である。とにかく、銭湯まで一走り。湯槽に、からだを沈ませて、ゆっくり考えてみると、不愉快になって来た。どうにも、むかむ・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  9. ・・・スランプトハ、コノ様ナ、パッション消エタル白日ノ下ノ倦怠、真空管ノ中ノ重サ失ッタ羽毛、ナカナカ、ヤリキレヌモノデアル。時々刻々ノワガ姿、笑ッタ、怒ッタ、マノワルキカッカッ燃ユル頬、トウモロコシムシャムシャ、ヒトリ伏シテメソメソ泣イテイル、ス・・・<太宰治「創生記」青空文庫>
  10. ・・・魚容はそのよごれ物をかかえて裏の河原におもむき、「馬嘶て白日暮れ、剣鳴て秋気来る」と小声で吟じ、さて、何の面白い事もなく、わが故土にいながらも天涯の孤客の如く、心は渺として空しく河上を徘徊するという間の抜けた有様であった。「いつまでもこ・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  11. ・・・熱帯の白日に照らされた道路のはるか向こうから兵隊のラッパと太鼓が聞こえて来る。アラビア人の馬方が道のまん中に突っ立った驢馬をひき寄せようとするがなかなかいこじに言うことを聞かない。馬方はとうとう自分ですべって引っくりかえって白いほこりがぱっ・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  12. ・・・しかし最後に絶望して女の邸宅を出て白日の街頭へ出るあたりの感じにはちょっとした俳諧が感ぜられなくはない。まっ白な土と家屋に照りつける熱帯の太陽の絶望的なすさまじさがこの場合にふさわしい雰囲気をかもしているようである。     十七 ・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  13. ・・・ これらの邦劇映画を見て気のつくことは、第一に芝居の定型にとらわれ過ぎていることである、書き割りを背にして檜舞台を踏んでフートライトを前にして行なって始めて調和すべき演技を不了簡にもそのままに白日のもと大地の上に持ち出すからである。それ・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  14. ・・・例の屋根の上に例の仁丹の広告がすすけよごれて見すぼらしく立っていた。白日のもとに見るとあれはいかにも手持ちぶさたな間の抜けたものである。 あらゆる宣伝を手持ちぶさたにする「太陽」のようなものがもし何かあるとしたら、それはどういうものであ・・・<寺田寅彦「神田を散歩して」青空文庫>
  15. ・・・そうして、肉桂酒、甘蔗、竹羊羹、そう云ったようなアットラクションと共に南国の白日に照らし出された本町市の人いきれを思い浮べることが出来る。そうしてさらにのぞきや大蛇の見世物を思い出すことが出来る。 三谷の渓間へ虎杖取りに行ったこともあっ・・・<寺田寅彦「郷土的味覚」青空文庫>
  16. ・・・ 赤羽のリンク半日の清遊の帰り途に、円タクに揺られているうちにこんな空想が白日の夢のように頭の中をかすめて通ったのであった。 ついでながら、人間のする大概の所業は動物界にもその原型を見出すことが出来るが、ただ「煙」をこしらえてそ・・・<寺田寅彦「ゴルフ随行記」青空文庫>
  17. ・・・ おもしろいと言えばおもしろいがそれは白日の夢のおもしろさで絵画としてのおもしろみであるかどうか私にはわからない。この人の傾向を徹底させて行くとつまりは何もかいてないカンバスの面がいちばんいい事になりはしないか。 津田青楓。 「黒きマン・・・<寺田寅彦「昭和二年の二科会と美術院」青空文庫>
  18. ・・・やっと地上へ出たときに白日の光の有難味を始めて覚えたのである。 高等学校を卒業していよいよ熊本を引上げる前日に保証人や教授方に暇ごいに廻った。その日の暑さも記憶の中に際立って残っているものである。卒倒しそうになると氷屋へはいって休み休み・・・<寺田寅彦「夏」青空文庫>
  19. ・・・黒天鵞絨のクションのまん中に美しい小さな勲章をのせたのをひもで肩からつり下げそれを胸の前に両手でささげながら白日の下を門から会堂までわずかな距離を歩いた。冬向きにこしらえた一ちょうらのフロックがひどく暑苦しく思われたことを思い出すことができ・・・<寺田寅彦「B教授の死」青空文庫>
  20. ・・・ それが冬だと何事もないが、夏だと白日の下に電燈の点った便所の戸をあけて自分で驚くのである。 習慣が行為の目的を忘れさせるという事の一例になる。         二 雨上がりに錦町河岸を通った。電車線路のすぐ脇の泥濘・・・<寺田寅彦「鑢屑」青空文庫>
  21. ・・・を風靡した「波動力学」のごときもその最初の骨組みはフランスの一貴族学者ド・ブローリーがすっかり組み立ててしまった。その「俳諧」の中に含まれた「さび」や「しおり」を白日の明るみに引きずり出してすみからすみまで注釈し敷衍することは曲斎的なるドイ・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  22. ・・・明治の初年日本の人々が皆感激の高調に上って、解脱又解脱、狂気のごとく自己を擲ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、青天白日の下に抱擁握手抃舞する刹那は来ぬであ・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  23. ・・・ぐさまこれを監督官に申出る、と監督官は降参人の今日の凹み加減充分とや思いけん、もう帰ろうじゃないかと云う、すなわち乗れざる自転車と手を携えて帰る、どうでしたと婆さんの問に敗余の意気をもらすらく車嘶いて白日暮れ耳鳴って秋気来るヘン 忘月忘・・・<夏目漱石「自転車日記」青空文庫>
  24. ・・・心の奥に何者かほのめいて消え難き前世の名残の如きを、白日の下に引き出して明ら様に見極むるはこの盾の力である。いずくより吹くとも知らぬ業障の風の、隙多き胸に洩れて目に見えぬ波の、立ちては崩れ、崩れては立つを浪なき昔、風吹かぬ昔に返すはこの盾の・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  25. ・・・そこには多くの知り合いがいた。白日の下には、彼を知るものは悉くが、敵であった。が、帰って行けば、「ふん、そいつはまずかった」と云って呉れるがいた。 だんだんは大きく、大胆になって行った。 汽車は滑かに、速に辷った。気持よく食堂車は揺・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  26. ・・・在るのは、数々の人間行動の基準の一つとして、両性関係をどう見てゆくか、という白日的な問題の提出方法である。それは、過去において、貞操が扱われたような信仰的なものではなくて、もっと客観的な探求の対象として、人間生活理解の上の課題としてあらわれ・・・<宮本百合子「貞操について」青空文庫>
  27. ・・・何かのはずみに間違えて平民の社会に天降った侯爵令嬢良子が、つつがなく再び天上したからには、総てはあの時ぎりの白日夢とし、東郷侯爵家というもののまわりは又〔七字伏字〕閉ざされたかの如き感じを世間が持つよう、細心な努力が払われている。 湯浅・・・<宮本百合子「花のたより」青空文庫>
  28. ・・・そして、この奸策を白日のもとに明かにしたのは、もちろんポベドノスツェフではなく、足をすくわれた後、立ち上ったロシアのマルキシストたちであった。 私は日本プロレタリア文学史の中でも、こんにちのさまざまな現象が、やはりそのような視角から明ら・・・<宮本百合子「冬を越す蕾」青空文庫>