はく‐じゃく【薄弱】例文一覧 30件

  1. ・・・意志薄弱なる空想家、自己および自己の生活を厳粛なる理性の判断から回避している卑怯者、劣敗者の心を筆にし口にしてわずかに慰めている臆病者、暇ある時に玩具を弄ぶような心をもって詩を書きかつ読むいわゆる愛詩家、および自己の神経組織の不健全なことを・・・<石川啄木「弓町より」青空文庫>
  2. ・・・ 自分は今つくづくとわが子の死に顔を眺め、そうして三日の後この子がどうなるかと思うて、真にわが心の薄弱が情けなくなった。わが生活の虚偽残酷にあきれてしまった。近隣親族の徒が、この美しい寝顔の前で埋葬を議することを、痛く不快に感じた。自分・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  3. ・・・試合中、盤の上で薄弱な咳をしていたということである。 この神田八段は大阪のピカ一棋師であるが、かつてしみじみ述懐して、――もし、自分が名人位挑戦者になれば、いや、挑戦者になりそうな形勢が見えれば、名人位を大阪にもって行かせるなと、全東京・・・<織田作之助「東京文壇に与う」青空文庫>
  4. ・・・うっかり私が洩らしたその噂をべつだん悲しみもせず、さもありなんという表情で受けとり、なにそのおれが死んだというデマは実はおれが飛ばしてやったんだと陰気な唇でボソボソ呟き、ケッケッというあやしい笑い声を薄弱な咳の間から垂らしていた。げっそりと・・・<織田作之助「道」青空文庫>
  5. ・・・文芸家の実行力の薄弱、社会的善の奉仕の懈怠等は皆ここから生じるのだ。この利己と利他、厳粛主義と情緒主義との調和の問題も倫理学上の根本問題である。 つぎに人格主義か、幸福主義かの問題が横たわる。 物象的価値の感情と自我価値感情とは対立・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  6. ・・・一口にいえば、学生時代の汚れた快楽の習慣は必ず精神的薄弱を結果するものだ。そして将来社会的に劣弱者となって、自らが求めた快楽さえも得られないという、あわれむべき状態に堕ちる恰好の原因となるものだ。       遊戯恋愛の習慣・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  7. ・・・この頃世間に哲学臭い事をいう奴が多いが、叩いて見ると皆数学思想が薄弱だから困るよ。これは日本支那の通弊サ、数学的観念が発達しない人間は馬鹿馬鹿しい事を考えるものだよ。論理学なんぞは学ぶに足らないのサ、数学で沢山サ。イイカネ、「物は或勢力より・・・<幸田露伴「ねじくり博士」青空文庫>
  8. ・・・精神が薄弱である。だめなのである。私には、人を指導する力が無い。誰にも負けぬくらいに祖国を、こっそり愛しているらしいのだが、私には何も言えない。なんだか、のどまで出かかっている、ほんとうの愛の宣言が私にも在るような気がするのであるが、言えな・・・<太宰治「鴎」青空文庫>
  9. ・・・女性には、意志薄弱のダメな男をほとんど直観に依って識別し、これにつけ込み、さんざんその男をいためつけ、つまらなくなって来ると敝履の如く捨ててかえりみないという傾向がございますようで、私などはつまりその絶好の獲物であったわけなのでございましょ・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  10. ・・・精神薄弱症、という病気なのかも知れない。うしろのアンドレア・デル・サルトたちが降りてしまったので、笠井さんも、やれやれと肩の荷を下ろしたよう、下駄を脱いで、両脚をぐいとのばし、前の客席に足を載せかけ、ふところから一巻の書物を取り出した。笠井・・・<太宰治「八十八夜」青空文庫>
  11. ・・・コフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると、知識の普及に従って追々は婦人の天才も輩出するようになりはしないか、と云うと、「貴方は予言が御好きのようだが、しかしその期待は少し根拠が薄弱だと思う。単に素養が増し智能が増すと・・・<寺田寅彦「アインシュタインの教育観」青空文庫>
  12. ・・・そうして付け焼き刃の文明に陶酔した人間はもうすっかり天然の支配に成功したとのみ思い上がって所きらわず薄弱な家を立て連ね、そうして枕を高くしてきたるべき審判の日をうかうかと待っていたのではないかという疑いも起こし得られる。もっともこれは単なる・・・<寺田寅彦「天災と国防」青空文庫>
  13.  満員電車のつり皮にすがって、押され突かれ、もまれ、踏まれるのは、多少でも亀裂の入った肉体と、そのために薄弱になっている神経との所有者にとっては、ほとんど堪え難い苛責である。その影響は単にその場限りでなくて、下車した後の数時・・・<寺田寅彦「電車の混雑について」青空文庫>
  14. ・・・ 上述のごとく、視覚による説が疑わしく、しかも嗅覚否定説の根拠が存外薄弱であるとして、そうして嗅覚説をもう一ぺん考え直してみるという場合に、一番に問題となることは、いかにして地上の腐肉から発散するガスを含んだ空気がはなはだしく希薄にされ・・・<寺田寅彦「とんびと油揚」青空文庫>
  15. ・・・実際われわれには暑さ寒さの感覚そのものも記憶は薄弱であるように見える。ただその感覚と同時に経験した色々の出来事の記憶の印銘される濃度が、その時の暑さ寒さの刺戟によって、強調されるのではないかという気がする。そうしてその出来事を想いだす時には・・・<寺田寅彦「夏」青空文庫>
  16. ・・・の人士の間では消防に関する研究がいろいろ行なわれており、また一方では防火に関する宣伝につとめている向きも決して少なくはないようであるが、それらの研究はまだ決して徹底的とは言い難く、宣伝の効果もはなはだ薄弱であると思われる。 消防当局のほ・・・<寺田寅彦「函館の大火について」青空文庫>
  17. ・・・犬の身に起った不幸な出来事は薄弱な太十の心を掻き乱して畢った。彼は殺すと口には断言した。然し彼の意識しない愛惜と不安とが対手に愁訴するように其声を顫わせた。殺すなといえばすぐ心が落ち付いて唯其犬が不便になったのである。然し対手は太十の心には・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  18. ・・・ただ饂飩に逢った時ばかりは全く意志が薄弱だと、自分ながら思うね」「ハハハハつまらん事を云っていらあ」「しかし豆腐屋にしちゃ、君のからだは奇麗過ぎるね」「こんなに黒くってもかい」「黒い白いは別として、豆腐屋は大概箚青があるじゃ・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  19. ・・・人格のない作家の作物は、卑近なる理想、もしくは、理想なき内容を与うるのみだからして、感化力を及ぼす力もきわめて薄弱であります。偉大なる人格を発揮するためにある技術を使ってこれを他の頭上に浴せかけた時、始めて文芸の功果は炳焉として末代までも輝・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  20. ・・・如何となれば、もし薄弱なる背景があるだけならば、徒にインデペンデントを悪用して、唯世の中に弊害を与えるだけで、成功はとても出来ないからである。 此処に成功という意味についても説明を要する。また強い背景という事についても説明を要するが、強・・・<夏目漱石「模倣と独立」青空文庫>
  21. ・・・ すなわち教育緩慢の働を変じて急劇となし、十年二十年に収むべき結果を目下に見んとするものなれば、教育本色の効力はきわめて薄弱たらざるをえざるなり。しかのみならず、その政治上において目下の所望は、あるいは十年を出でずして、大に望むに足らざ・・・<福沢諭吉「政事と教育と分離すべし」青空文庫>
  22. ・・・一点の瑕瑾、以て全璧の光を害して家内の明を失い、禍根一度び生じて、発しては親子の不和となり、変じては兄弟姉妹の争いとなり、なお天下後世を謀れば、一家の不徳は子々孫々と共に繁殖して、遂に社会公徳の根本を薄弱ならしむるに至るべし。故に云く、多妻・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  23. ・・・いわば連帯性の薄弱な愛情は永年にわたって持ちこしてゆけない。それほど、風雨はきついのである。あるときはちりぢりとなって、あるときは獄の内外に、あるときは一つ屋根の下に、それぞれの活動に応じ千変万化の必要な形をとりつつ階級の歴史とともにその幸・・・<宮本百合子「新しい一夫一婦」青空文庫>
  24. ・・・ 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作者はいわゆる筆が立つと・・・<宮本百合子「一連の非プロレタリア的作品」青空文庫>
  25. ・・・人として生活経験に薄弱な過去ほか有しない彼女は、今日も尚、人生の諸相に対して無智と不明とを持っていて、その問題を混乱させるだろう。面倒に成って来た人及び我を見るとひとりでに彼女は怖気付く。決して、今日根を絶してはいない「自分は女だ」と云う自・・・<宮本百合子「概念と心其もの」青空文庫>
  26.  それを見たことで その人の人生に何かが加わり 或は何かが変る丈の力がなくては 観光の対象として極めて薄弱だ。「戦災のあとも見て貰って 十分満足させて」云々。これは心ある日本人をして 何となくばつの悪い思いをさせた。日本・・・<宮本百合子「観光について」青空文庫>
  27. ・・・ 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。 私の全心にとって、今、良人の死を予想することは、一つの恐ろしい空虚を想うことです。激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはい・・・<宮本百合子「偶感一語」青空文庫>
  28. ・・・感覚的な止揚性を持つまでには清少納言の官能はあまりに質薄で薄弱で厚みがない。新感覚的表徴は少くとも悟性によりて内的直感の象徴化されたものでなければならぬ。即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観から・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  29. ・・・ ここに恐らく自然主義の薄弱な反動に過ぎない理由があるのである。十九世紀後半が生んだ偉大なものは、たとえ自然主義のいい影響をうけていたにしても、決して自然主義的な本質を持ってはいなかった。そこには常に自然主義以上のものがあった。この事実・・・<和辻哲郎「「自然」を深めよ」青空文庫>
  30. ・・・しかれども霊的執着は薄弱である。彼の蹈む人道は誠に責任を無視している。彼の信仰は問わず、彼に空海の才腕と日蓮の熱烈なきはかれの霊的価値を無に近からしむ。わずかに和歌に隠れて詩人を気取るとも「自己」をのみ目的とする彼に何の価値があろう。 ・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>