はく‐ちゅう〔‐チウ〕【白昼】例文一覧 30件

  1. ・・・ そこで、彼は、妻子家来を引き具して、白昼、修理の屋敷を立ち退いた。作法通り、立ち退き先の所書きは、座敷の壁に貼ってある。槍も、林右衛門自ら、小腋にして、先に立った。武具を担ったり、足弱を扶けたりしている若党草履取を加えても、一行の人数・・・<芥川竜之介「忠義」青空文庫>
  2. ・・・海は――目の前に開いている海も、さながら白昼の寂寞に聞き入ってでもいるかのごとく、雲母よりもまぶしい水面を凝然と平に張りつめている。樗牛の吐息はこんな瞬間に、はじめて彼の胸からあふれて出た。――自分はこういう樗牛を想像しながら、長い秋の夜を・・・<芥川竜之介「樗牛の事」青空文庫>
  3. ・・・女の小屋に荒れこむ勢で立上ると彼れは白昼大道を行くような足どりで、藪道をぐんぐん歩いて行った。ふとある疎藪の所で彼れは野獣の敏感さを以て物のけはいを嗅ぎ知った。彼れははたと立停ってその奥をすかして見た。しんとした夜の静かさの中で悪謔うような・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  4. ・・・妙齢の娘でも見えようものなら、白昼といえども、それは崩れた土塀から影を顕わしたと、人を驚かすであろう。 その癖、妙な事は、いま頃の日の暮方は、その名所の山へ、絡繹として、花見、遊山に出掛けるのが、この前通りの、優しい大川の小橋を渡って、・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  5. ・・・ 十日を措かず、町内の娘が一人、白昼、素裸になって格子から抜けて出た。門から手招きする杢若の、あの、宝玉の錦が欲しいのであった。余りの事に、これは親さえ組留められず、あれあれと追う間に、番太郎へ飛込んだ。 市の町々から、やがて、木蓮・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  6. ・・・ 私は――白昼、北海の荒波の上で起る処のこの吹雪の渦を見た事があります。――一度は、たとえば、敦賀湾でありました――絵にかいた雨竜のぐるぐると輪を巻いて、一条、ゆったりと尾を下に垂れたような形のものが、降りしきり、吹煽って空中に薄黒い列・・・<泉鏡花「雪霊続記」青空文庫>
  7. ・・・ 薄暗い白昼の影が一つ一つに皆映る。 背後の古襖が半ば開いて、奥にも一つ見える小座敷に、また五壇の雛がある。不思議や、蒔絵の車、雛たちも、それこそ寸分違わない古郷のそれに似た、と思わず伸上りながら、ふと心づくと、前の雛壇におわするの・・・<泉鏡花「雛がたり」青空文庫>
  8. ・・・それがしは、今日今宵この刻まで、人並、いやせめては月並みの、面相をもった顔で、白昼の往来を、大手振って歩いて来たが、想えば、げすの口の端にも掛るアバタ面! 楓どの。今のあの言葉をお聴きやったか」「いいえ、聴きませぬ。そのような、げす共の・・・<織田作之助「猿飛佐助」青空文庫>
  9. ・・・よしんば借りて帰るにしても、温泉場の夜ならともかく、白昼の大阪の町を、若い娘の寝巻姿は目立ちすぎる。それに、履物がない。「宿屋の女中さんに事情話して、著物貸して貰うかな」「いや」「どうして?」「だって」 裸で来た理由を語・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  10. ・・・と、眼を開けば、例の山査子に例の空、ただ白昼というだけの違い。おお、隣の人。ほい、敵の死骸だ! 何という大男! 待てよ、見覚があるぞ。矢張彼の男だ…… 現在俺の手に掛けた男が眼の前に踏反ッているのだ。何の恨が有っておれは此男を手に掛けた・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  11. ・・・過ぎて、いつもならば九時前には吉次の出て来るはずなるを、どうした事やらきのうも今日も油さえ売りにあるかぬは、ことによると風邪でも引いたか、明日は一つ様子を見に行ってやろうとうわさをすれば影もありありと白昼のような月の光を浴びてそこに現われ、・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  12. ・・・「若し彼女が大東館にでも宿泊っていたら、僕と白昼出会わすかも知れない、僕は見るのも嫌です。往来で会うかも知れません如斯な狭い所ですから。」「会っても知らん顔していれば可いじゃア御座いませんか。」「不愉快です。殊に今度貴女に会った・・・<国木田独歩「恋を恋する人」青空文庫>
  13. ・・・もはや電燈が点いて白昼のごとくこの一群の人を照らしている。人々は黙して正作のするところを見ている。器械に狂いの生じたのを正作が見分し、修繕しているのらしい。 桂の顔、様子! 彼は無人の地にいて、我を忘れ世界を忘れ、身も魂も、今そのなしつ・・・<国木田独歩「非凡なる凡人」青空文庫>
  14. ・・・の痕淋漓たる十露盤に突いて湯銭を貸本にかすり春水翁を地下に瞑せしむるのてあいは二言目には女で食うといえど女で食うは禽語楼のいわゆる実母散と清婦湯他は一度女に食われて後のことなり俊雄は冬吉の家へ転げ込み白昼そこに大手を振ってひりりとする朝湯に・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  15. ・・・このときの思い出だけは、霞が三角形の裂け目を作って、そこから白昼の透明な空がだいじな肌を覗かせているようにそんな案配にはっきりしている。祖母は顔もからだも小さかった。髪のかたちも小さかった。胡麻粒ほどの桜の花弁を一ぱいに散らした縮緬の着物を・・・<太宰治「玩具」青空文庫>
  16. ・・・ 笹島先生、白昼から酔っぱらって看護婦らしい若い女を二人ひき連れ、「や、これは、どこかへお出かけ?」「いいんですの、かまいません。ウメちゃん、すみません客間の雨戸をあけて。どうぞ、先生、おあがりになって。かまわないんですの。」・・・<太宰治「饗応夫人」青空文庫>
  17. ・・・かれら夫婦ひと月ぶんの生活費、その前夜に田舎の長兄が送ってよこした九十円の小切手を、けさ早く持ち出し、白昼、ほろ酔いに酔って銀座を歩いていた。老い疲れたる帝国大学生、袖口ぼろぼろ、蚊の脛ほどに細長きズボン、鼠いろのスプリングを羽織って、不思・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  18. ・・・あれこれ考えながら、白く乾いた相川のまちを鞄かかえて歩いていたが、どうも我ながら形がつかぬ。白昼の相川のまちは、人ひとり通らぬ。まちは知らぬ振りをしている。何しに来た、という顔をしている。ひっそりという感じでもない。がらんとしている。ここは・・・<太宰治「佐渡」青空文庫>
  19. ・・・そうして、そういうことが白昼烈日の下に行われ、しかもその下でなければ行われ難いところに妙味があるようである。しかしあまり度々こんな悪戯をやると警官に怪しまれるであろうが一度だけは大丈夫成功するであろうと思われる。それはとにかく、このヘリオト・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  20. ・・・このようにして、白昼帝都のまん中で衆人環視の中に行なわれた殺人事件は不思議にも司直の追求を受けずまた市人の何人もこれをとがむることなしにそのままに忘却の闇に葬られてしまった。実に不可解な現象と言わなければなるまい。 それはとにかく、実に・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  21. ・・・言わば白粉ははげ付け髷はとれた世にもあさましい老女の化粧を白昼烈日のもとにさらしたようなものであったのである。 これに反してまた、世にも美しいながめは雪の降る宵の銀座の灯の町である。あらゆる種類の電気照明は積雪飛雪の街頭にその最大能率を・・・<寺田寅彦「銀座アルプス」青空文庫>
  22. ・・・しかしこれが人を殺すための道具だと思って見ると、白昼これを電車の中に持ち込んで、誰も咎める人のないのみならず、何の注意すらも牽かないのが不思議なようにも思われた。 結局絵は一枚も描かないで疲れ切って帰って来たのであった。しかしケンプェル・・・<寺田寅彦「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  23. ・・・町には平凡な商家が並び、どこの田舎にも見かけるような、疲れた埃っぽい人たちが、白昼の乾いた街を歩いていた。あの蠱惑的な不思議な町はどこかまるで消えてしまって、骨牌の裏を返したように、すっかり別の世界が現れていた。此所に現実している物は、普通・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  24. ・・・ミネルバの梟は、もはや暗い洞窟から出て、白昼を飛ぶことが出来るだろう。僕はその希望を夢に見て楽しんでいる。<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  25. ・・・もし白昼にまなこを正しく開くならば、その日天子の黄金の征矢に伐たれるじゃ。それほどまでに我等は悪業の身じゃ。又人及諸の強鳥を恐る。な。人を恐るることは、今夜今ごろ講ずることの限りでない。思い合せてよろしかろう。諸の強鳥を恐る。鷹やはやぶさ、・・・<宮沢賢治「二十六夜」青空文庫>
  26. ・・・草木が宇宙の季節を感じるように、一日に暁と白昼と優しい黄昏の愁があるように、推移しずにはいません。いつか或るところに人間をつき出します。それが破綻であるか、或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒か、互いの性格と運とによりましょが、い・・・<宮本百合子「愛は神秘な修道場」青空文庫>
  27. ・・・此深い白昼の沈黙と溢れる光明の裡に座して私、未熟なる一人の artist は何を描こう。空想は重く、思惟は萎えてただ 只管のアンティシペーションが内へ 内へ肉芽を養う胚乳の溶解のように融け入るのだ。・・・<宮本百合子「海辺小曲(一九二三年二月――)」青空文庫>
  28. ・・・―― それにしても、このような空想的遠征を、旧銀座通りの白昼にしたのは、私ばかりであったろうか。 身なりもかまわず、風が誘うと一枚の木の葉のようにあの街頭に姿を現し、目的もなく、買う慾もなく、ただ愉しんで美を吸い込んで歩いたのは・・・<宮本百合子「小景」青空文庫>
  29. ・・・それに何事ぞ、奸盗かなんぞのように、白昼に縛首にせられた。この様子で推すれば、一族のものも安穏には差しおかれまい。たとい別に御沙汰がないにしても、縛首にせられたものの一族が、何の面目あって、傍輩に立ち交わって御奉公をしよう。この上は是非にお・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  30. ・・・父が箱の蓋を取って見て、白昼に鬼を見て、毒でもなんでもない物を毒だと思って怖れるよりは、箱の内容を疑わせて置くのが、まだしもの事かと思う。 秀麿のこう思うのも無理は無い。明敏な父の子爵は秀麿がハルナックの事を書いた手紙を見て、それに対す・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>