はく‐めい【薄明】例文一覧 13件

  1. ・・・ 蒼味を帯びた薄明が幾個ともなく汚点のように地を這って、大きな星は薄くなる、小さいのは全く消えて了う。ほ、月の出汐だ。これが家であったら、さぞなア、好かろうになアと…… 妙な声がする。宛も人の唸るような……いや唸るのだ。誰か同じく脚・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  2. ・・・ 主人が大きい藁ぐつをはいて、きのう降りつもったばかりの雪を踏みかため踏みかため路をつくってくれて、そのあとから嘉七、かず枝がついて行き、薄明の谷川へ降りていった。主人が持参した蓙のうえに着物を脱ぎ捨て、ふたり湯の中にからだを滑り込ませ・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  3. ・・・くべき一条の光りの路がいよいよ間違い無しに触知せられたような大歓喜の気分になり、涙が気持よく頬を流れて、そうして水にもぐって眼をひらいてみた時のように、あたりの風景がぼんやり緑色に烟って、そうしてその薄明の漾々と動いている中を、真紅の旗が燃・・・<太宰治「トカトントン」青空文庫>
  4. ・・・ 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑っ・・・<太宰治「走れメロス」青空文庫>
  5. ・・・ 翌る朝、薄明のうちにもう起きて、そっと鏡台に向って、ああと、うめいてしまいました。私は、お化けでございます。これは、私の姿じゃない。からだじゅう、トマトがつぶれたみたいで、頸にも胸にも、おなかにも、ぶつぶつ醜怪を極めて豆粒ほども大きい・・・<太宰治「皮膚と心」青空文庫>
  6. ・・・その薄明の中に、きわめて細かい星くずのような点々が燦爛として青白く輝く、輝いたかと思った瞬間にはもう消えてしまっている。 この星のような光を見る瞬間に突然不思議な幻覚に襲われることがしばしばある。それはちょっと言葉で表わすことのむつかし・・・<寺田寅彦「詩と官能」青空文庫>
  7.  これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。 富沢は地図のその点に橙を塗って番号を書きながら読んだ。斉田はそれを包みの・・・<宮沢賢治「泉ある家」青空文庫>
  8. ・・・ 稀薄な空気がみんみん鳴っていましたがそれは多分は白磁器の雲の向うをさびしく渡った日輪がもう高原の西を劃る黒い尖々の山稜の向うに落ちて薄明が来たためにそんなに軋んでいたのだろうとおもいます。 私は魚のようにあえぎながら何べんもあたり・・・<宮沢賢治「インドラの網」青空文庫>
  9. ・・・ やがて太陽は落ち、黄水晶の薄明穹も沈み、星が光りそめ、空は青黝い淵になりました。「ピートリリ、ピートリリ。」と鳴いて、その星あかりの下を、まなづるの黒い影がかけて行きました。「まなづるさん。あたしずゐぶんきれいでせう。」赤いダ・・・<宮沢賢治「まなづるとダァリヤ」青空文庫>
  10. ・・・もうぼんやりした薄明で内の人の姿は見わけられないが、確に人がい、開けた障子の窓からこっちに向って、今度は手ばたきで答える。「わかりました、じき上ります」という暗号なのだ。それをきくと私は安心して茶の間に戻って来る。そして、小さな女中・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  11. ・・・五十一頁に亙る探偵小説は、主人公が「現実と理性との薄明にさ迷っている知識階級で」あり「このような知識階級にあり勝ちな、殊に斯う云う犯罪事件に際して出て来る特徴は、どうも現実を理性で納得させると云う趣があることである。ほんとのところを言えと言・・・<宮本百合子「作家のみた科学者の文学的活動」青空文庫>
  12. ・・・夜の十二時ごろでもすっかりは暮れきれず、日本の夏の七八時ごろの薄明りが夜中ずっとのこっている。日本の宵には空にうすら明るみがただよっていても、樹かげや大地から濃い闇が這いのぼって来て浴衣の白さを目立たせるのだけれど、北の夏の白夜の明るさには・・・<宮本百合子「モスクワ」青空文庫>
  13. ・・・いつまでもそれを見ていると、彼の世界はただ拡大された乳房ばかりとなって薄明が迫って来る。やがて乳房の山は電光の照明に応じて空間に絢爛な線を引き垂れ、重々しい重量を示しながら崩れた砲塔のように影像を蓄えてのめり出した。 彼は夜になると家を・・・<横光利一「街の底」青空文庫>