ばけ【化け】例文一覧 30件

  1. ・・・そこで彼等はまず神田の裏町に仮の宿を定めてから甚太夫は怪しい謡を唱って合力を請う浪人になり、求馬は小間物の箱を背負って町家を廻る商人に化け、喜三郎は旗本能勢惣右衛門へ年期切りの草履取りにはいった。 求馬は甚太夫とは別々に、毎日府内をさま・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・さらにまた伝うる所によれば、悪魔はその時大歓喜のあまり、大きい書物に化けながら、夜中刑場に飛んでいたと云う。これもそう無性に喜ぶほど、悪魔の成功だったかどうか、作者は甚だ懐疑的である。・・・<芥川竜之介「おぎん」青空文庫>
  3. ・・・博士に化けた Mephistopheles は或大学の講壇に批評学の講義をしていた。尤もこの批評学は Kant の Kritik や何かではない。只如何に小説や戯曲の批評をするかと言う学問である。「諸君、先週わたしの申し上げた所は御理解・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  4. ・・・そのまた海辺には人間よりも化け物に近い女が一人、腰巻き一つになったなり、身投げをするために合掌していた。それは「妙々車」という草双紙の中の插画だったらしい。この夢うつつの中の景色だけはいまだにはっきりと覚えている。正気になった時のことは覚え・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  5. ・・・ひょっとしたら狸が帽子に化けて僕をいじめるのではないかしら。狸が化けるなんて、大うそだと思っていたのですが、その時ばかりはどうもそうらしい気がしてしかたがなくなりはじめました。帽子を売っていた東京の店が狸の巣で、おとうさんがばかされていたん・・・<有島武郎「僕の帽子のお話」青空文庫>
  6. ・・・「なんだか化けそうだね」「いずれ怪性のものです。ちょいと気味の悪いものだよ」 で、なんとなく、お伽話を聞くようで、黄昏のものの気勢が胸に染みた。――なるほど、そんなものも居そうに思って、ほぼその色も、黒の処へ黄味がかって、ヒヤリ・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  7. ・・・ きゃあらきゃあらと若い奴、蜩の化けた声を出す。「真桑、李を噛るなら、あとで塩湯を飲みなよ。――うんにゃ飲みなよ。大金のかかった身体だ。」 と大爺は大王のごとく、真正面の框に上胡坐になって、ぎろぎろと膚をみまわす。 とその中・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  8. ・・・「大かい魚ア石地蔵様に化けてはいねえか。」 と、石投魚はそのまま石投魚で野倒れているのを、見定めながらそう云った。 一人は石段を密と見上げて、「何も居ねえぞ。」「おお、居ねえ、居めえよ、お前。一つ劫かしておいて消えたずら・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  9. ・・・とおっかな吃驚で扉を開けると、やあ、化けて来た。いきなり、けらけらと笑ったのは大柄な女の、くずれた円髷の大年増、尻尾と下腹は何を巻いてかくしたか、縞小紋の糸が透いて、膝へ紅裏のにじんだ小袖を、ほとんど素膚に着たのが、馬ふんの燃える夜の陽炎、・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  10. ・・・死んだッて、化けて出てやらア。高がお客商売の料理屋だ、今に見るがいい」と、吉弥はしきりに力んでいた。 僕は何にも知らない風で、かの女の口をつぐませると、それまでわくわくしていたお貞が口を出し、「まア、えい。まア、えい。――子供同士の・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  11. ・・・自分の霊魂は、なにかに化けてきても、きっと子供の行く末を見守ろうと思いました。牛女の大きなやさしい目の中から、大粒の涙が、ぽとりぽとりと流れたのであります。 しかし、運命には牛女も、しかたがなかったとみえます。病気が重くなって、とうとう・・・<小川未明「牛女」青空文庫>
  12. ・・・       五 ――馴れぬ手つきで揉みだした手製の丸薬ではあったが、まさか歯磨粉を胃腸薬に化けさせたほどのイカサマ薬でもなく、ちゃんと処方箋を参考にして作ったもの故、どうかすると、効目があったという者も出て来た。市内新聞の・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  13. ・・・それは女のお化けです。顔はあたり前ですが、後頭部に――その部分がお化けなのです。貪婪な口を持っています。そして解した髪の毛の先が触手の恰好に化けて、置いてある鉢から菓子をつかみ、その口へ持ってゆこうとしているのです。が、女はそれを知っている・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  14. ・・・パルチザンはそれにつけこんで、百姓に化けて、安全に、平気であとから追っかけて来た軍隊の傍を歩きまわった。向うに持っている兵器や、兵士の性質を観察した。そして、次の襲撃方法の参考とした。 中隊長は、それをチャンと知っていた。しかし、パルチ・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  15. ・・・ 饅頭を食べながら話を聞くと、この饅頭屋の店先には、娘に化けて手拭を被った張子の狐が立たせてあった。その狐の顔がそこの家の若い女房におかしいほどそっくりなので、この近在で評判になった。女房の方では少しもそんなことは知らないでいたが、先達・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  16. ・・・直立不動の姿勢でもってそうお願いしてしまったので、商人、いいえ人違いですと鼻のさきで軽く掌を振る機会を失い、よし、ここは一番、そのくぼたとやらの先生に化けてやろうと、悪事の腹を据えたようである。 ――ははは。ま。掛けたまえ。 ――は・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  17. ・・・僕は、僕もバイロンに化け損ねた一匹の泥狐であることを、教えられ、化けていることに嫌気が出て、恋の相手に絶交状を書いた。自分の生活は、すべて嘘であり、偽であり、もう、何ごとも信ぜず、絶望の穴に落ち入る。きょうより以後、あなたの文学をみとめない・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  18. ・・・いっそ、化けて出ようか知ら。」<太宰治「失敗園」青空文庫>
  19. ・・・盗賊が紳商に化けて泊っていた時の話、県庁の役人が漁師と同腹になって不正を働いた一条など、大方はこんな話を問わず語りに話した。中には哀れな話もあった。数年前の夏、二階に泊っていた若い美しい人の妻の、肺で死んだ臨終のさまなど、小説などで読めば陳・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  20. ・・・たとえば透明な浮遊生物の映画などでも、考えよう一つであの生物のあるものが人間ほどの大きさをもったダンサーの化け物のように思われて来る。そうするとその運動は非常に軽快に見え、そうして今にもわれわれに食ってかかりそうな無気味さを感じる。しかし顕・・・<寺田寅彦「映画の世界像」青空文庫>
  21. ・・・がギリシアの「海の化けもの」ktos に通じ、「けだもの」、「気疎い」にも縁がなくはない。 話は変わるが二三日前若い人たちと夕食をくったとき「スキ焼き」の語原だと言って某新聞に載っていた記事が話題にのぼった。維新前牛肉など食うのは禁・・・<寺田寅彦「言葉の不思議」青空文庫>
  22. ・・・わたくしは枯蘆の中から化けて出た狐のような心持がして、しげしげと女の顔を見た。 電線の鳴る音を先立てて、やがて電車が来る。洋服の男が二人かけ寄って、ともどもに電車に乗り込む。洲崎大門前の終点に来るまで、電車の窓に映るものは電柱につけた電・・・<永井荷風「元八まん」青空文庫>
  23. ・・・なおわがままを云い募ればこれが電車にも変化し自動車または飛行器にも化けなければならなくなるのは自然の数であります。これに反して電車や電話の設備があるにしても是非今日は向うまで歩いて行きたいという道楽心の増長する日も年に二度や三度は起らないと・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  24. ・・・お前さんたちがどんなに田舎者見てえな恰好をしてたって、番頭に化けたって、腰弁に化けて居たって、第一、おめえさんなんぞ、上はアルパカだが、ズボンがいけねえよ。晒しでもねえ、木綿の官品のズボンじゃねえか。第一、今時、腰弁だって、黒の深ゴムを履き・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  25. ・・・すると高ちャんという子の声で「年ちャんそんなに打つと化けるよ化けるよ」とやや気遣わしげにいう。今年五つになる年ちャんという子は三人の中の一番年下であるが「なに化けるものか」と平気にいってまた強く打てば猫はニャーニャーといよいよ窮した声である・・・<正岡子規「飯待つ間」青空文庫>
  26. ・・・松のいっぱい生えてるのもある、坊主 山男はひとりでこんなことを言いながら、どうやら一人まえの木樵のかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だったのです。山男は、まだどうも頭があんまり軽くて、からだのつりあいがよくないとおもい・・・<宮沢賢治「山男の四月」青空文庫>
  27. ・・・「あげえ業の深けえ婆、世話でも仕ずに死なしたら、忘れっこねえ、きっと化けて出よるぜ」 沢や婆は、幸死なずに治れた。が、すっかり衰えた。憎たらしい、横柄な口も利かなくなった。いずれにせよ、仙二はこの経験で、彼女を隣人として持つことは、・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  28.  七月○日 火曜日 散歩。 F子洗髪を肩に垂らしたまま出た。水瓜畑の間を通っていると、田舎の男の児、  狐の姐さん! 化け姐さん!と囃した。 七月○日 水曜日 三時過から仕度をし、T・P・W倶楽部・・・<宮本百合子「狐の姐さん」青空文庫>
  29. ・・・燃木の火花が散ってか、大小の焼っこげがお化けの眼玉の様にポカポカとあいて居る。 上り框に近い方に大きく切った炉には「ほだ」がチロチロと燃えて、えがらっぽい灰色の煙が高い処をおよいで居る。畳の隅の「みかん箱」の様なものの上に、水銀のはげた・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  30. ・・・耶蘇は表面姿を消しているが、しかし異学に姿を変じて活躍している、あたかも妖狐の化けた妲己のようである、というのである。その文章は実に陰惨なヒステリックな感じを与える。少しでも朱子学の埒の外に出て、自由に物を考える人は、耶蘇の姿を変じたものと・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>