・・・ ――思い出は多い。半開人のような自分を中心にして種々様々な場合が思い浮んで来る。書いても、書いても尽きなく感ぜられる。子供の社会生活や、大人と子供――学校では先生と生徒との間に、どんな鋭い人格的、或は人間的純・不純の直覚があるか、少し・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・それが夜の間に豊かな春を呼吸して、一輪は殆ど満開に、もう一輪、心を蕩かすような半開の花が露を帯びて匂っている。年来生活の活々した流れや笑を失った家と庭にはどこやらあらそえない沈滞が不健康にくろずみ澱んでいる。そこへただ一点、精気を凝して花弁・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ だが、明治の初頭、『女学雑誌』を発行した人々が胸に抱いていた情熱、日本では半開のままで次の波をかぶってしまった男女の人間的平等への希望は今日どのような変貌をとげて、どこに生きつづけているであろうか。今日のロマンティシズムさえ日本では女・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫