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へい‐おん〔‐ヲン〕【平穏】例文一覧 30件

  1. ・・・ 単純な、平穏な死である。踊ることをも忘れて、ついと行ってしまうのである。「おやまあ」と貴夫人が云った。 それでも褐色を帯びた、ブロンドな髪の、残酷な小娘の顔には深い美と未来の霊とがある。 慈悲深い貴夫人の顔は、それとは違っ・・・<著:アルテンベルクペーター 訳:森鴎外「釣」青空文庫>
  2. ・・・ 伊助の浄瑠璃はお光が去ってからきゅうに上達し、寺田屋の二階座敷が素義会の会場につかわれるなど、寺田屋には無事平穏な日々が流れて行ったが、やがて四、五年すると、西国方面の浪人たちがひそかにこの船宿に泊ってひそびそと、時にはあたり憚か・・・<織田作之助「螢」青空文庫>
  3. ・・・ けれどもまず平穏無事に日が経ちますうち、ちょうど八月の中ごろの馬鹿に熱い日の晩でございます、長屋の者はみんな外に出て涼んでいましたが私だけは前の晩寝冷えをしたので身体の具合が悪く、宵から戸を閉めて床に就きました。なんでも十時ごろまで外・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  4. ・・・梅子に対してはさすがの老先生も全然子供のようで、その父子の間の如何にも平穏にして情愛こまかなるを見る時は富岡先生実に別人のようだと誰しも思っていた位。「マアどうして?」村長は驚ろいて訊ねた。「どうしてか知らんが今度東京から帰って来て・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  5. ・・・その時は実に我もなければ他もない、ただたれもかれも懐かしくって、忍ばれて来る、『僕はその時ほど心の平穏を感ずることはない、その時ほど自由を感ずることはない、その時ほど名利競争の俗念消えてすべての物に対する同情の念の深い時はない。『僕・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  6. ・・・無かった縁に迷いは惹かぬつもりで、今日に満足して平穏に日を送っている。ただ往時の感情の遺した余影が太郎坊の湛える酒の上に時々浮ぶというばかりだ。で、おれはその後その娘を思っているというのではないが、何年後になっても折節は思い出すことがあるに・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  7. ・・・  されど、  憩いを知らぬ帆は、  嵐の中にこそ平穏のあるが如くに、  せつに狂瀾怒濤をのみ求むる也。 あわれ、あらしに憩いありとや。鶴は所謂文学青年では無い。頗るのんきな、スポーツマンである。けれども、恋人の森ち・・・<太宰治「犯人」青空文庫>
  8. ・・・ 中華民国には地方によってはまれに大地震もあり大洪水もあるようであるが、しかしあの厖大なシナの主要な国土の大部分は、気象的にも地球物理的にも比較的にきわめて平穏な条件のもとにおかれているようである。その埋め合わせというわけでもないかもし・・・<寺田寅彦「災難雑考」青空文庫>
  9. ・・・臨終は平穏であった。みんなに看護の礼を言って暇ごいをして、自分の死後妻には自由を与えてやってくれと遺言して、静かに息を引きとったそうである。 急を聞いて国へ帰っていた亮の弟からその時の詳しい様子を聞いた時に、私はなんだかほっとしたような・・・<寺田寅彦「亮の追憶」青空文庫>
  10. ・・・ こんなふうであったから、従って夜はおそくまで、朝は早くから起床して勉強に取りかかるというような例はなく、それに私の家はごく平穏、円満な家庭であったから、いつでも勉強したいと思う時には、なんの障害もなく、静かに、悠乎と読書に親しむことが・・・<寺田寅彦「わが中学時代の勉強法」青空文庫>
  11. ・・・楽屋はいつも平穏無事のようである。 踊子の踊の間々に楽屋の人たちがスケッチとか称している短い滑稽な対話が挿入される。その中には人の意表に出たものが時々見られるのだ。靴磨が女の靴をみがきながら、片足を揚げた短いスカートの下から女の股間を窺・・・<永井荷風「裸体談義」青空文庫>
  12. ・・・一剋である外に欠点はない彼は正直で勤勉でそうして平穏な生涯を継続して来た。殊に瞽女を知ってからというもの彼は彼の感ずる程度に於て歓楽に酔うて居た。二十年の歓楽から急転し彼は備さに其哀愁を味わねばならなくなった。一大惨劇は相尋いで起った。・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  13. ・・・世間並みの夫婦として別にひとの注意をひくほどの波瀾もなく、まず平穏に納まっているから、人目にはそれでさしつかえないようにみえるけれども、姉娘の父母はこの二、三年のあいだに、苦々しい思いをたえず陰でなめさせられたのである。そのすべては娘のかた・・・<夏目漱石「手紙」青空文庫>
  14. ・・・だから国家の平穏な時には、徳義心の高い個人主義にやはり重きをおく方が、私にはどうしても当然のように思われます。その辺は時間がないから今日はそれより以上申上げる訳に参りません。 私はせっかくのご招待だから今日まかり出て、できるだけ個人の生・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  15. ・・・百千年来蛮勇狼藉の遺風に籠絡せられて、僅に外面の平穏を装うと雖も、蛮風断じて永久の道に非ず。我輩は其所謂女子敗徳の由て来る所の原因を明にして、文明男女の注意を促さんと欲する者なり。又初めに五疾の第五は智恵浅きことなりと記して、末文に至り中に・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  16. ・・・家には平穏な寝息、戸外には夜露にぬれた耕地、光の霧のような月光、蛙の声がある。――眠りつかないうちに、「かすかに風が出て来たらしいな」私は、雨戸に何か触るカサカサという音を聞いた。「そう風だ、風以外の何であろうはずはないではないか、そして、・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  17. ・・・の抒情性には、平穏に巣ごもった男女の恋着のなま暖かさはない。大きく暗くおそろしい嵐がすぎて空ににおやかな虹のかかったとき、再び顔と顔とを見合わせた男女が、互の健闘を慶び、生きていることをよろこび、そのよろこばしさにひとしお愛を燃えたたせる姿・・・<宮本百合子「解説(『風知草』)」青空文庫>
  18. ・・・然し今まで平穏に自分の囲を取捲いていた生活の調子は崩れてしまうだろう、自分はまるで未知未見な生活に身を投じて、辛い辛い思いで自分を支えて行かなければならない――ここで、人として独立の自信を持ち得ない、持つ丈の実力を欠いている彼女は、何処かに・・・<宮本百合子「概念と心其もの」青空文庫>
  19. ・・・これは異様な、愕きをともなった感覚であって、まるで風の音もきこえない暖い病室で臥たり、笑ったりしている平穏な自分の内部に折々名状しがたい瞬間となって浮び出て来る。やっぱり腹を切るというのは相当のこと也。○ 手術した晩に、安らかな気持なの・・・<宮本百合子「寒の梅」青空文庫>
  20. ・・・ 然しながら、それなら平穏なここがよいかと訊かれたら、私は直ぐ返事する。否だ。この小さな住宅地は隠居所である。私共のような人間の住場所には不適当だ。小さい商売を定った顧客対手にしつつ、その間で金を蓄めようとする小売商人は根性がどうも立派・・・<宮本百合子「是は現実的な感想」青空文庫>
  21. ・・・宮崎龍介の妻として納り、今日その日その日をどうやら外見上平穏に過しておられるようになってしまえば、愛のない性的交渉を強制される点では伝ネムの妻であった彼女の場合より比較にならぬ惨苦につき入れられている貧困な、無力無智な女の群に対し、「女には・・・<宮本百合子「昨今の話題を」青空文庫>
  22. ・・・の題材とちがって、国家の権力によって組織されていた一つの巨大な野蛮と殺りくの全体系の一部分を題材としたのであるから、作者が題材としてきりとって来てそこを描き出した一片の経験は、短期間の、比較的平穏なものであったにしても、人民の芸術として読み・・・<宮本百合子「小説と現実」青空文庫>
  23. ・・・農村とても、決して平穏に彼等の拒絶をしかねているであろう。当然、ごたつく。その結果、次の当然として、強制買上供出としての強権以外の強権が発動するだろう。あちらも、こちらも、大ごたつきに揉めて、つづまるところは、何かと云えば、それを、きっかけ・・・<宮本百合子「人民戦線への一歩」青空文庫>
  24. ・・・という恐怖が目覚めて、大いそぎで涙を拭く彼女は、激情の緩和された後の疲れた平穏さと、まだ何処にか遺っている苦しくない程度の憂鬱に浸って、優雅な蒼白い光りに包まれながら、無限の韻律に顫える万物の神秘に、過ぎ去った夢の影を追うのであった。・・・<宮本百合子「地は饒なり」青空文庫>
  25. ・・・けれ共此頃、彼の心に湧いて居た事々が僅かながら解りかけて来た様な心持で種々考えて見ると、彼の死は非常に平穏な形式に依った一種の自滅ではなかったかと云う事を考えさせられる。 誰も私に云ったのでも注意したのでもない。 けれ共私はそう感じ・・・<宮本百合子「追憶」青空文庫>
  26. ・・・―― 神田に向う電車通りに出ると、空円タクがふだんの倍ほど通っているきり、平穏である。むこうから一台、ワイシャツの前にネクタイをたらし、カンカン帽の運転手に運転された電車が来た。 私の乗っているバスの俄車掌は、停留所が近くなると、長・・・<宮本百合子「電車の見えない電車通り」青空文庫>
  27. ・・・ 先生の生活はまことに平穏無事である。そして幸福である。一番大きな息子は、京都で医者になってもう細君もある。けれ共、なぐさみに小さい男の児を育てたいと云って居るのである。 斯うして心配なく、こんな空気の好い処に住んで居て、早死にをし・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  28. ・・・ 十、十一、十二、平穏。 十三日 少しよくなってA、学校学校とさわぐ。 よくなって自分の仕事をして居られるのに行かないのはどうもと、義務を云々する。自分は其を姑息に感ず。 十四日 岸博士来、左胸部浸潤 来年二月頃・・・<宮本百合子「「伸子」創作メモ(二)」青空文庫>
  29. ・・・然し、愈々夜が明けると、二百十日は案外平穏なことがわかった。前夜の烈風はやんで、しとしとと落付いた雨が降っている。人々は、その雨の嬉しさにすっかり昨日の地震のことなどは忘れた。彼等は楽しそうに納屋から蓑をとり出した。そして、露のたまった稲の・・・<宮本百合子「私の覚え書」青空文庫>
  30. ・・・朝夕平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々したような起居振舞をする。それにいつものような発揚の状態になって、饒舌をすることは絶えて無い。寧沈黙勝だと云っても好い。只興奮しているために、瑣細な事にも腹を立てる。又何事もないと、わざわざ人・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>