・・・ ――成程、それは妙案ですね。その足跡を印に追いかければきっと捕まるでしょう。 ――物は試しですからまあやって見るのですね。 ――早速そうしましょう。 × 腰元が大ぜいで砂をまいている。 ――さ・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・お敏もこの計画を実行するのは、随分あぶない橋を渡るようなものだとは思いましたが、何しろ差当ってそのほかに、目前の災難を切り抜ける妙案も思い当りませんから、明くる日の朝思い切って、「しょうちいたしました」と云う返事を泰さんに渡しました。ところ・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・はっと妙案が胸に浮びました。この美しい雪景色を、お嫂さんに持って行ってあげよう。スルメなんかより、どんなによいお土産か知れやしない。たべものなんかにこだわるのは、いやしい事だ。本当に、はずかしい事だ。 人間の眼玉は、風景をたくわえる事が・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・題ばかりに随筆がついていて可笑しいことになったが、別にこれぞという妙案もなくそのままにした。 一九三七年三月十九日〔一九三七年四月〕 宮本百合子 「序(『昼夜随筆』)」
・・・『ホホウ、これは妙案だ、フム、実に巧い!』『いかがでございます、陛下』『実に妙案だ、さぞそうなったらうるさくなくて気が楽じゃろうてハハハハハハハ』『ヒヒヒヒヒヒヒヒ』 一寸法師はどこかへ消えてしまった。 翌日、総理大・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ もう締めて横になろうとした時、計らず一つ妙案が浮んだ。自分の家の物干だあもの、洗濯物の金盥を持って、水口から登ろうと、二階から出ようと誰に苦情を云われる義理はない訳ではないか。五月蠅がって出るのは彼方の勝手だ。――決心に満足を感じ、せ・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫