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む‐しん【無心】例文一覧 30件

  1. ・・・も湯にしろ両親が口を開けてその日その日の仕送を待つのであるから、一月と纏めてわずかばかりの額ではないので、毎々借越にのみなるのであったが、暖簾名の婦人と肩を並べるほど売れるので、内証で悪い顔もしないで無心に応じてはいたけれども、応ずるは売れ・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  2. ・・・ もっとも、その前日も、金子無心の使に、芝の巴町附近辺まで遣られましてね。出来ッこはありません。勿論、往復とも徒歩なんですから、帰途によろよろ目が眩んで、ちょうど、一つ橋を出ようとした時でした。午砲!――あの音で腰を抜いたんです。土を引・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  3. ・・・…… 既に、何人であるかを知られて、土に手をついて太夫様と言われたのでは、そのいわゆる禁厭の断り悪さは、金銭の無心をされたのと同じ事――但し手から手へ渡すも恐れる……落して釵を貸そうとすると、「ああ、いや、太夫様、お手ずから。……貴女様・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  4. ・・・そうして間もなく無心に眠ってしまった。二人の姉共と彼らの母とは、この気味の悪い雨の夜に別れ別れに寝るのは心細いというて、雨を冒し水を渡って茶室へやって来た。 それでも、これだけの事で済んでくれればありがたいが、明日はどうなる事か……取片・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  5. ・・・才なさがあるものだが、世事に馴れない青年や先輩の恩顧に渇する不遇者は感激して忽ち腹心の門下や昵近の知友となったツモリに独りで定めてしまって同情や好意や推輓や斡旋を求めに行くと案外素気なく待遇われ、合力無心を乞う苦学生の如くに撃退されるので、・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  6.  海に近く、昔の城跡がありました。 波の音は、無心に、終日岸の岩角にぶつかって、砕けて、しぶきをあげていました。 昔は、このあたりは、繁華な町があって、いろいろの店や、りっぱな建物がありましたのですけれど、いまは、荒れて、さびし・・・<小川未明「海のかなた」青空文庫>
  7. ・・・こう思って、何も知らずに、無心に遊びつゝある子供等の顔を見る時、覚えず慄然たらざるを得ないのであります。 朝に、晩に、寒い風にも当てないようにして、育てゝ来た子供を機関銃の前に、毒瓦斯の中に、晒らすこと対して、たゞこれを不可抗力の運命と・・・<小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」青空文庫>
  8. ・・・ しかし、空拳と無芸では更に成すべき術もなく、寒山日暮れてなお遠く、徒らに五里霧中に迷い尽した挙句、実姉が大邱に在るを倖い、これを訪ね身の振り方を相談した途端に、姉の亭主に、三百円の無心をされた。姉夫婦も貧乏のどん底だった。「百円は・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・いつまでも一本立ち出来ず、孤独な境遇のまま浮草のようにあちこちの理髪店を流れ歩いて来た哀れなみじめさが、ふと幼友達の身辺に漂うているのを見ると、私はその無心を断り切れなかった。散髪の職人だというのに不精髭がぼうぼうと生え、そこだけが大人であ・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  10. ・・・その結果はちょいちょい耕太郎が無心の手紙を持たされて、一里の道を老父の処へ使いにやらされた。……継母が畑へ出た留守を覘うのであった。それでも老父は、「耕太郎可愛さにつき金一円さしあげ候、以来は申越しこれなきよう願いあげ候」といったような・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  11. ・・・僕等は生れてこの天地の間に来る、無我無心の小児の時から種々な事に出遇う、毎日太陽を見る、毎夜星を仰ぐ、ここに於てかこの不可思議なる天地も一向不可思議でなくなる。生も死も、宇宙万般の現象も尋常茶番となって了う。哲学で候うの科学で御座るのと言っ・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  12. ・・・農民が逃げて、主人がなくなった黒い豚は、無心に、そこらの餌をあさっていた。彼等はそれをめがけて射撃した。 相手が×間でなく、必ずうてるときまっているものにむかって射撃するのは、実に気持のいゝことだった。こちらで引鉄を振りしめると、すぐ向・・・<黒島伝治「前哨」青空文庫>
  13. ・・・ 無心の子供を母親がたしなめていた。 井村は、自分にむけられた三本脚の松ツァンの焦燥にギョロ/\光った視線にハッとした。「うちの市三、別条なかったか。」 市三は、影も形も彼の眼に這入らなかった。井村は、眼を伏せて、溜息をして・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  14. ・・・お富は無心な子供の顔をみまもりながら、「お母さん、御覧なさい、この児はもうあの地震を覚えていないようですよ」 とお三輪に言って見せた。 そこはお三輪に取って彼女が両親の生れ故郷にあたる。そこには旧い親戚の家もある。そこの古い寺の・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  15. ・・・私もまだ山の上のわびしい暮らしをしていた時代で、かなり骨の折れる日を送っていたところへ、今の青山の姪の父親にあたる私の兄貴から、電報で百円の金の無心を受けた。当時兄貴は台湾のほうで、よくよく旅で困りもしたろうが、しかもそれが二度目の無心で、・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  16. ・・・彼等は内の箪笥の抽斗にまだ幾らかの金を持っている人達で、もし無心でも言われてはならないと思ったのである。その外の男等は冷淡に踵を旋らして、もと来た道へ引き返した。頭を垂れて、唇を噛みながらゆるやかに引返した。この男等は、人に分けてやるような・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  17. ・・・ けれども、そんなことして、あの女工さん、おどろき、おそれてふっと声を失ったら、これは困る。無心の唄を、私のお礼が、かえって濁らせるようなことがあっては、罪悪である。私は、ひとりでやきもきしていた。 恋、かも知れなかった。二月、寒い・・・<太宰治「I can speak」青空文庫>
  18. ・・・娘は、笑っていた。「こんどこそ、飲まないからね」「なにさ」娘は、無心に笑っていた。「かんにんして、ね」「だめよ、お酒飲みの真似なんかして」 男の酔いは一時にさめた。「ありがとう。もう飲まない」「たんと、たんと、からか・・・<太宰治「あさましきもの」青空文庫>
  19. ・・・ 私は無我無心でぼんやりしていた。ただ身体中の毛穴から暖かい日光を吸い込んで、それがこのしなびた肉体の中に滲み込んで行くような心持をかすかに自覚しているだけであった。 ふと気がついて見ると私のすぐ眼の前の縁側の端に一枚の浅草紙が落ち・・・<寺田寅彦「浅草紙」青空文庫>
  20. ・・・いつもの通りの銅色の顔をして無心に藻草の中をあさっている。顔には憂愁の影も見えぬ。自分が近寄ったのも気が付かぬか、一心に拾っては砂浜の高みへ投げ上げている。脚元近く迫る潮先も知らぬ顔で、時々頭からかぶる波のしぶきを拭おうともせぬ。 何処・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  21. ・・・一は全く無心の間事である。一は雕虫の苦、推敲の難、しばしば人をして長大息を漏らさしむるが故である。 今秋不思議にも災禍を免れたわが家の庭に冬は早くも音ずれた。筆を擱いてたまたま窓外を見れば半庭の斜陽に、熟したる梔子燃るが如く、人の来って・・・<永井荷風「十日の菊」青空文庫>
  22. ・・・ところが相手は是まで大分諸処方々無心に歩き廻った事があると見えて、僕よりはずっと馴れているらしい。「いくらでも結構です。足りなければ又いただきに来ますから。きょうはいくらでも御都合のいいだけで結構です。」「じゃ、これだけ持っておいで・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  23. ・・・彼の癇癖は彼の身辺を囲繞して無遠慮に起る音響を無心に聞き流して著作に耽るの余裕を与えなかったと見える。洋琴の声、犬の声、鶏の声、鸚鵡の声、いっさいの声はことごとく彼の鋭敏なる神経を刺激して懊悩やむ能わざらしめたる極ついに彼をして天に最も近く・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  24. ・・・「無心ながら宿貸す人に申す」とややありてランスロットがいう。「明日と定まる仕合の催しに、後れて乗り込む我の、何の誰よと人に知らるるは興なし。新しきを嫌わず、古きを辞せず、人の見知らぬ盾あらば貸し玉え」 老人ははたと手を拍つ。「望める・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  25. ・・・その家人と共に一家に眠食して団欒たる最中にも、時として禁句に触れらるることあれば、その時の不愉快は譬えんに物なし。無心の小児が父を共にして母を異にするの理由を問い、隣家には父母二人に限りて吾が家に一父二、三母あるは如何などと、不審を起こして・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  26. ・・・全くの無心でこの大きな火の影を見て居るとその火の中に俄に人の顔が現れた。 見ると西洋の画に善くある、眼の丸い、くるくるした子供の顔であった。それが忽ち変って高帽の紳士となった。もっとも帽の上部は見えて居らぬ。首から下も見えぬけれど何だか・・・<正岡子規「ランプの影」青空文庫>
  27. ・・・すすきの花の向い火や、きらめく赤褐の樹立のなかに、鹿が無心に遊んでいます。ひとは自分と鹿との区別を忘れ、いっしょに踊ろうとさえします。<宮沢賢治「『注文の多い料理店』新刊案内」青空文庫>
  28. ・・・丁度無心に咲いている花の、花自身は知らぬ深い美に似たものが、ふき子の身辺にあった。陽子は、自分の生活の苦しさなどについて一言もふき子に話す気になれなかった。        四 妹の百代、下の悌、忠一、又従兄の篤介、陽子まで加・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・ 恭二は、行末の知れて居る様な傾いた実家を思うと、金の無心も出来ず、まして、他の人達のする様にそっと母親の小遣いを曲げてもらうなどと云う事も、母の愛の薄いために此家へ来た位だから到底出来る事ではなかった。 中に入って板挾みの目に・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  30. ・・・子供の正直な心は無心に父親の態度を非難していたのです。大きい愛について考えていた父親は、この小さい透明な心をさえも暖めてやることができませんでした。 私は自分を呪いました。食事の時ぐらいはなぜ他の者といっしょの気持ちにならなかったのでし・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>