あっ‐とう〔‐タウ〕【圧倒】例文一覧 30件

  1. ・・・が、嫌悪はもう一度彼女の勇気を圧倒した。「あなた!」 彼女が三度目にこう言った時、夫はくるりと背を向けたと思うと、静かに玄関をおりて行った。常子は最後の勇気を振い、必死に夫へ追い縋ろうとした。が、まだ一足も出さぬうちに彼女の耳にはい・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2.  私には口はばったい云い分かも知れませんが聖書と云う外はありません。聖書が私を最も感動せしめたのは矢張り私の青年時代であったと思います。人には性の要求と生の疑問とに、圧倒される荷を負わされる青年と云う時期があります。私の心の・・・<有島武郎「『聖書』の権威」青空文庫>
  3. ・・・死が総てを圧倒した。そして死が総てを救った。 お前たちの母上の遺言書の中で一番崇高な部分はお前たちに与えられた一節だった。若しこの書き物を読む時があったら、同時に母上の遺書も読んでみるがいい。母上は血の涙を泣きながら、死んでもお前たちに・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  4. ・・・絵画など――ことに絵画はかれをして後世永久の名を残さしめた物だが、ほとんどすべて未成品だ――を平気で、あせることなくやっている間に、後進または弟子であってまた対抗者なるミケランジェロやラファエルなどに圧倒されてしまった。 僕はその大エネ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  5. ・・・先客があったり、後から誰か来合せたりすると彼は往きにもまして一層滅入った、一層圧倒された惨めな気持にされて帰らねばならぬのだ―― 彼は歯のすっかりすり減った日和を履いて、終点で電車を下りて、午下りの暑い盛りをだら/\汗を流しながら、Kの・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  6. ・・・、ああした不幸な青年たちに直接に、自分として持ってきたすべてを捧げたい――そうしたところに自分の救いの道があるのではあるまいか、などと、いつものアル中的空想に囚われたりしたが、結局自分はその晩の光景に圧倒され、ひどく陰鬱な狂おしいような気持・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  7. ・・・陰影といい、運筆といい、自分は確にこれまで自分の書いたものは勿論、志村が書いたものの中でこれに比ぶべき出来はないと自信して、これならば必ず志村に勝つ、いかに不公平な教員や生徒でも、今度こそ自分の実力に圧倒さるるだろうと、大勝利を予期して出品・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  8. ・・・それで君は時とすると自然の美のあまりに複雑して現われているのに圧倒せられてしまう、僕にはそんなことはない、君は自然を捉えようと試みる、僕は観て感じ得るだけを感ずる、だいぶ僕の方が楽だ。時によると僕も日記中に君の見取り図くらいなところを書きと・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  9. ・・・然し二人は圧倒されて愕然とした、中辺の高さでは有るが澄んで良い声であった。「揃いも揃って、感心しどころのある奴の。」 罵らるべくもあるところを却って褒められて、二人は裸身の背中を生蛤で撫でられたでもあるような変な心持がしたろう。・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  10. ・・・彼らの境遇や性質が、もしひとたび改変せられて、これらの事情から解脱するか、あるいはこれらの事情を圧倒するにいたるべき他の有力なる事情が出来するときには、死はなんでもなくなるのである。ただに死を恐怖しないのみでなく、あるいは恋のために、あるい・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  11. ・・・はなくて、多くは其個個が有せる迷信・貪欲・愚癡・妄執・愛着の念を払い得難き性質・境遇等に原因するのである、故に見よ、彼等の境遇や性質が若し一たび改変せられて、此等の事情から解脱するか、或は此等の事情を圧倒するに足るべき他の有力なる事情が出来・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  12. ・・・そこここに高く聳ゆる宏大な建築物は、壮麗で、斬新で、燻んだ従来の形式を圧倒して立つように見えた。何もかも進もうとしている。動揺している。活気に溢れている。新しいものが旧いものに代ろうとしている。八月の日の光は窓の外に満ちて、家々の屋根と緑葉・・・<島崎藤村「並木」青空文庫>
  13. ・・・それでも、既にそれぞれ、両親を圧倒し掛けている。父と母は、さながら子供たちの下男下女の趣きを呈しているのである。 夏、家族全部三畳間に集まり、大にぎやか、大混乱の夕食をしたため、父はタオルでやたらに顔の汗を拭き、「めし食って大汗かく・・・<太宰治「桜桃」青空文庫>
  14. ・・・熊本君は、佐伯の急激に高揚した意気込みに圧倒され、しぶしぶ立って、「僕は事情をよく知らんのですからね、ほんのお附合いですよ。」「事情なんか、どうだっていいじゃないか。僕の出発を、君は喜んでくれないのか? 君は、エゴイストだ。」「いや・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  15. ・・・そんな、苦心談でもって人を圧倒して迄、お義理の喝采を得ようとは思わない。芸術は、そんなに、人に強いるものではないと思う。 一日に三十枚は平気で書ける作家もいるという。私は一日五枚書くと大威張りだ。描写が下手だから苦労するのである。語・・・<太宰治「自作を語る」青空文庫>
  16. ・・・木村神崎韓信は、たしかにあのやけくその無頼の徒より弱かったのだ、圧倒せられていたのだ。勝目が無かったのだ。キリストだって、時われに利あらずと見るや、「かくして主は、のがれ去り給えり」という事になっているではないか。 のがれ去るより他は無・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  17. ・・・この現象は現代の東京にもまだあるかもしれないがたぶんは他の二十世紀文化の物音に圧倒されているためにだれも注意しなくなったのであろうと思う。ともかくも気温や風の特異な垂直分布による音響の異常伝播と関係のある怪異であろうと想像される。・・・<寺田寅彦「化け物の進化」青空文庫>
  18. ・・・畢竟するに女大学記者が男尊女卑の主義を張らんとして其根拠なきに苦しみ、纔に古の法なるものを仮り来りて天地など言う空想を楯にし、論法を荘厳にして以て女性を圧倒し、無理にもこれを暗処に蟄伏せしめんとの窮策に出でたるものと言う可し。既に男尊女卑と・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  19. ・・・実明白にして、何等の陋眼をもってこれを視るも、上士を先にするというべからず、下士を後にするというべからず、その目的とするところは正しく中津旧藩の格式りきみを制し、これを制了して共に与に日本社会の虚威を圧倒せんとするもののごとくにして、藩士の・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  20. ・・・異にして義を同じうし、磊々落々は政治家の徳義なりとて、長老その例を示して少壮これに傚い、遂に政治社会一般の風を成し、不品行は人の体面を汚すに足らざるのみならず、最も磊落、最も不品行にして始めて能く他を圧倒するに足るものの如し。 そもそも・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  21. ・・・ これを要するに曙覧の歌は『万葉』に実朝に及ばざること遠しといえども、貫之以下今日に至る幾百の歌人を圧倒し尽せり。新言語を用い新趣向を求めたる彼の卓見は歌学史上特筆して後に伝えざるべからず。彼は歌人として実朝以後ただ一人なり。真淵、景樹・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  22. ・・・現実の複雑な力のきつさに芸術精神が圧倒される徴候がまだ目新しいものとして感じられていた当時、西鶴の名とともに云われたこの散文精神ということは、のしかかって来る現実に我からまびれて行こう、そしてそこから何かを再現しようという意味で、文学上、一・・・<宮本百合子「現実と文学」青空文庫>
  23. ・・・翌六年満州事変が始ってから、あらゆる婦人参政権獲得に関する運動は、軍事目的のために圧倒され、婦選案などは議会にとり上げられさえもしなくなって来た。その頃から、本年八月迄、十四年の間、日本の婦人運動は辛うじて母子保護法を通過させたのみで、炭鉱・・・<宮本百合子「現実に立って」青空文庫>
  24. ・・・ 行きつまったブルジョア文壇の生産力を、新しいプロレタリア文学の作品が圧倒しつつある。従って文芸批評でもプロレタリア文芸批評が、もっと広汎に研究され、活溌に行われなければならないのだと思う。 真実に強い文化的基準と新しく見なおした目・・・<宮本百合子「こういう月評が欲しい」青空文庫>
  25. ・・・迫り、泣かせ、圧倒するリズムがあれから浸透して来ますか?ああ、私の望むもの、私の愛すもの其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。静に燃え、忽ちぱっとをあげ、やがて ほのかに 四辺を照す。     *新・・・<宮本百合子「五月の空」青空文庫>
  26. ・・・感覚の消滅したがごとき認識活動はその自らなる力なき形式的法則性故に、忽ち文学活動に於ては圧倒されるにちがいない。何ぜなら、感覚は要約すれば精神の爆発した形容であるからだ。 自分は茲では文学的表示としての新しき感覚活動が、文化形式との関係・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  27. ・・・しかし、彼は人々の体臭の中で、何ぜともなく不意に悲しさに圧倒されて立ち停った。それは鈍った鉛の切断面のようにきらりと一瞬生活の悲しさが光るのだ。だが、忽ち彼はにやりと笑って歩き出した。彼は空壜の積った倉庫の間を通って帰って来るとそのまま布団・・・<横光利一「街の底」青空文庫>
  28. ・・・彼は今生きることの苦しさに圧倒せられて自分のようなものは生きる値打ちもないとさえ思っている。しかしそれは彼の根が一つの地殻に突き当たってそれを突破する努力に悩んでいるからである。やがてその突破が実現せられた時に、どのような飛躍が彼の上に起こ・・・<和辻哲郎「樹の根」青空文庫>
  29. ・・・そうして彼らは、自分を圧倒する激しい感激によって、その知識の偽りでないことを自分自身に実証した。彼らは自己の前にある物が右のごとき神秘な力の現われであることを信ずるほかはない。またそれを礼拝しないではいられない。 しかし真に彼らの感激を・・・<和辻哲郎「偶像崇拝の心理」青空文庫>
  30. ・・・それは恐らく自己の人格を圧倒する力に対して畏服しないではいられない衝動にもとづくものであろう。同時にまたそれは我々の内のかくのごとき力を求める心に、もとづくものであろう。神はこの力の象徴であった。神が滅ぼされた時には悪魔が代わって象徴となっ・・・<和辻哲郎「「自然」を深めよ」青空文庫>