・・・の成り立は、さる事なりとするも、汝がこれを以て極悪兇猛の鬼物となす条、甚以て不審なり。その故は、われ、昔、南蛮寺に住せし時、悪魔「るしへる」を目のあたりに見し事ありしが、彼自らその然らざる理を述べ、人間の「じゃぼ」を知らざる事、夥しきを歎き・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・いうまでもなく、死刑に処せられるのは、かならず極悪の人、重罪の人であることをしめすものだ、と信ずるが故であろう。死刑に処せられるほどの極悪・重罪の人となることは、家門のけがれ、末代の恥辱、親戚・朋友のつらよごしとして、忌みきらわれるのであろ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 左らば世人が其を忌わしく恐るべしとするのは何故ぞや、言う迄もなく死刑に処せられるのは必ず極悪の人、重罪の人たることを示す者だと信ずるが故であろう、死刑に処せらるる程の極悪・重罪の人たることは、家門の汚れ、末代の恥辱、親戚・朋友の頬汚し・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに、身内の者の寿命をちぢめるとは、憎みても余りある極悪人ではないか。死ね! 親が無くても子は育つ、という。私の場合、親が有るから子は育たぬのだ。親が、子供の貯金をさえ使い・・・ 太宰治 「父」
・・・p.279 笞のようにビザンティンの十字架を手にした極悪な狂信的な中世紀の僧侶、恰もそんな風に彼は政治家、宗教的狂信者としてわれわれに向って来るのである。p.279○口角泡をとばし、手をふるわせて彼はわれわれの世界に悪魔祓いをするの・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫