胃の構造とはたらき
胃は袋状の臓器で、長さは成人で約25㎝。からだの中心よりやや左よりの、左上腹部からへその間に位置しています。 胃の容積は、空腹時には50ml以下ですが、食後には1.5l、詰め込めば2lにもなります。口腔から肛門まで連なる消化管のなかで、もっとも大きな容積をもつ臓器が胃です。 胃は食道から送られてきた食べ物を消化しながら、小腸の受け入れを待ちます。そして、少しずつゆっくりと、粥状になった食べ物を小腸の最初の部分である十二指腸へ送り出します。このように、食べ物を一時的に蓄えること、胃液(塩酸とペプシン)によって、たんぱく質を分解することが胃の二大機能です。 食べ物が胃を通過するのに要する時間は、液体ならば数分以内、固形物では1~2時間程度です。しかし、脂肪を多く含む脂っこい食べ物は、3~4時間ほど胃にとどまります。 食道とつながる胃の入り口部分を「噴門」、胃の天井に当たる部分を「胃底」、胃の大部分を占める中央部を「胃体」、そして十二指腸とつながる胃の出口部分を「幽門」と呼びます。 幽門は括約筋という筋肉でできています。括約筋は輪状の筋肉で、胃の出口を閉じたり開いたりすることによって、胃の内容物の貯留・排出を調節しています。「括る」という文字にあるように、バルブのような役割をもつ筋肉といってもよいでしょう。 幽門は、食べ物が中性か弱酸性ならば開きますが、強い酸性の場合は、十二指腸の内壁が酸でただれないよう、反射的に閉じるようになっています。 胃液は、胃の内側を覆う粘膜の「胃腺」から分泌されます。胃腺には、①「塩酸」を分泌する「壁細胞」、②「ペプシノーゲン」「胃リパーゼ」を分泌する「主細胞」、③胃壁を守る「粘液」を分泌する「副細胞」の3つの細胞があります。胃底部や胃体部の胃腺からは塩酸やペプシノーゲンが多めに分泌され、噴門と幽門の胃腺からは粘液が多めに分泌されます。 塩酸、ペプシノーゲン、粘液が合わさって胃液となりますが、塩酸には食べ物を殺菌して、腐敗・発酵を防ぐはたらきがあります。 ペプシノーゲンは、たんぱく質を分解する強力な消化酵素「ペプシン」の前駆物質です。 ペプシノーゲンは、壁細胞が分泌する塩酸に活性化されて、ペプシンに変化して初めて機能します。副細胞が分泌する粘液は、塩酸で胃壁がただれないよう防御する役割を果たします。
肝臓の役割
肝臓には、生命維持に不可欠なはたらきがいくつもありますが、主なはたらきは「代謝」「解毒」「胆汁の生成」です。 代謝とは、食べ物から吸収された栄養素を体内で利用できる形につくり変えたり、貯蔵したり、供給したりするはたらきをいいます。 解毒とは、からだに有害な物質を分解して、無害な物質に変える機能のこと。体内でつくられる有害物質は、肝臓で無害な物質に変換されて、尿や便とともに排出されます。 もう一つ、肝臓には胆汁の生成という重要な役割があります。脂肪の消化・吸収に必要な胆汁を生成し、胆のう・胆管を経て腸へ送り出すはたらきのことです。 胆汁の成分の大部分は水分ですが、胆汁色素の「ビリルビン」や胆汁酸、コレステロールなどが一緒に溶けています。 そのほかにも肝臓は、女性ホルモンの代謝や血液の一時的な貯蔵、古くなった赤血球からヘモグロビン(たんぱく質)を分解し、ビリルビンをつくるなどの役割も担っています。
口腔の構造と役割
口腔(口)は、上唇、下唇、歯、歯肉、舌、口蓋、口蓋垂からなっています。 上唇と下唇に分かれる口唇は、表情筋によって動きます。 舌は、柔軟な横紋筋である内舌筋と外舌筋でできており、舌下神経によって動きがコントロールされます。 舌の周囲には、唾液を分泌する唾液腺(耳下腺、舌下腺、顎下腺)があります。 口腔内に食べ物が入ると同時に、唾液腺から唾液が分泌されます。奥歯で噛み砕かれた食べ物は唾液と混ぜ合わされ、舌などの働きによって、咽頭、食道へ送り込まれます。 舌の表面には"味蕾"という器官があり、味覚を感知しています。 食べ物の味は、舌にある「味蕾」という器官から大脳へ伝達されます。 味蕾では味孔(小さな孔)にある微絨毛という突起が食物の味を感知し、電気信号に変換して感覚神経から大脳の味覚野へ送ります。 大脳では、「甘い」「苦い」「塩辛い」「すっぱい」のみならず、「うまい」も判断しています。 歯には表面に露出している部分と、歯肉(歯茎)で隠れている部分があります。 見えている部分を歯冠、隠れている部分を歯根といいます。また、歯根を支えているのが歯槽骨と呼ばれる部分です。 歯冠の表面は、硬いエナメル質であり、歯冠全体をコーティングしています。一方、歯根の表面は、骨と同じセメント質で覆われています。 エナメル質やセメント質の内側は、やや柔らかい象牙質という組織でできています。 象牙質のなかには、象牙細管という細い管が走り、その奥に歯髄という神経や血管の入った組織があります。一般に〝神経〟と呼ばれるのは、この歯髄です。 歯には、食べ物を噛み切る"切歯"、食べ物を引き裂く"犬歯"、噛み切られた食べ物を細かく噛み砕く"小臼歯"と"大臼歯"という4種類の形があります。 これらの歯は、上顎、下顎それぞれ前歯を中心に、左右対称に並んでいます。 歯は、上下32本生えてくる人もいます。 そのうち、もっとも奥にある上下4本の第3臼歯は、通称「親知らず」と呼ばれる歯です。 親知らずは、約7割の人にしか生えてきませんので、通常は第3臼歯を除いた28本を永久歯として数えます。
呼吸器のしくみ
通常「のど」と呼ばれている部分は、口腔、鼻腔、食道上部の咽頭、気管上部の喉頭までを指します。 のどは、呼吸器官としては外気との出入口にあたり、酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するはたらきをしています。また、食べ物の通り道、声を出すための器官という複数の役割も担っています。そして、外気から取り込まれた空気は、喉頭からさらに気管の奥へ送られます。 気管は、のどと肺をつなぐ管状の部分で、軟骨と筋肉でできています。気管は下端が2本に分岐しており、分岐から先を「気管支」と呼びます。 気管支は、左右の肺まで続く主気管支、肺の中で細かく分岐する細気管支からなります。 肺は、脊椎、肋骨、胸骨でつくられた鳥かご状の胸郭で囲まれている、リーフ型をした袋状の呼吸器官です。左右の肺は対称ではなく、右肺は上葉、中葉、下葉の3つに分かれているのに対し、左肺は近くに心臓があることから上葉、下葉のみで、右肺に比べて小さめにできています。内部では、気管支、肺動脈、肺静脈がすみずみまでのびています。 呼吸器経路で運ばれてきた空気は、肺の中の呼吸細気管支と呼ばれるいちばん末端の気管支から、酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞まで到達します。
消化管の最末端―肛門
肛門は直腸から続く長さ約3㎝ほどの器官です。食べ物の残滓を排泄し、便やガスの排出をコントロールします。 肛門の内部を見ると、内壁は歯状線を境に粘膜(直腸)と皮膚(肛門)に分かれます。粘膜で覆われた直腸部分は、自律神経に支配されているため、痛みなどの感覚がありません。 一方、肛門部分は皮膚と同じ脊髄神経に支配されているので、痛みを感じます。そのため、歯状線より上の直腸部分にできる内痔核はあまり痛みませんが、歯状線より下の肛門部分にできる外痔核はひどく痛みます。 肛門の外側は「内肛門括約筋」、「外肛門括約筋」という筋肉に取り囲まれています。 外肛門括約筋は、自分の意思でコントロールすることができます。排便が可能であれば、外肛門括約筋の収縮が解かれ、排便がおこります。これを"随意性排便"といいます。排便時は、自力で外肛門括約筋をゆるめるとともに、いきむことで腹圧を高めて便を直腸から押し出します。 外肛門括約筋は、自分の意思でゆるめようとしない限り収縮しているので、すぐに排便できないような状況下では、便意をこらえることができます。 睡眠中などの無意識下でも、内肛門括約筋が自動的に収縮して肛門を閉じており、また大脳から外肛門括約筋に収縮の指令が出ているため、便が勝手に漏出することはありません。
食道のはたらき・食道の構造
食道は、のどと胃をつなぐ細長い管状の器官です。胃や腸などと同じ消化器官の一つですが、消化の機能はなく、食べ物を胃へと運ぶための輸送路として働いています。 食道の長さは成人で25㎝~30㎝ほどあり、長径約2㎝、短径約1㎝の楕円形をしています。ふだん食道は前後につぶれて閉じており、食べ物が通るときにだけ、大きく広がります。 食べ物は、液体で1秒~10秒、固形物で30秒~60秒ほどで、食道を通過していきます。 食道は3つのセクションに分けられます。のどから鎖骨の辺りまでが「頸部食道」。「胸部食道」は最も長く、大動脈、気管支、心臓など重要な器官と隣り合っています。そして、横隔膜から食道・胃接合部(噴門部)までの最も短い部分が「腹部食道」です。 また、食道には生理的狭窄といって、もともとくびれて狭くなっている部分が3カ所あります。食道の入り口部分の「第1狭窄部」。「第2狭窄部」は気管支が交差する部分。「第3狭窄部」は、胃液が逆流しないよう狭くなっています。 これら狭窄部にはがんができやすく、"食べ物がつかえる"などの違和感がある場合は要注意です。 食道の壁は厚さが約4mm。一番内側は「粘膜」で覆われています。この粘膜は、食べ物が通過しやすいよう、また食道が食べ物で傷つかないよう丈夫で滑らかな「重層扁平上皮細胞」という組織でつくられています。 粘膜の外には、「粘膜筋板」という薄い筋肉の層があり、その外は「粘膜下層」といいます。 粘膜下層のさらに外には、「輪状筋」と「縦走筋」からなる固有筋層があり、食道の蠕動運動を担っているのがこれら筋肉の層です。そして、いちばん外側は「外膜」という膜状の結合組織で覆われています。
十二指腸のはたらき
腸は、十二指腸から肛門まで、全長約7.5mの管です。はたらきの違いから大きく小腸と大腸に分けられ、さらに小腸は十二指腸、空腸、回腸に、大腸は盲腸、結腸、直腸に分けられます。 十二指腸は、胃に続く小腸のはじまりの部分です。胃から送られてきた食べ物に胆汁やすい液といった消化液が加えられ、本格的な消化が開始されます。ただし、ここではまだ吸収は行われません。 十二指腸はC字形の形をした25cmほどの臓器。およそ指12本分ほどの長さであることから、その名で呼ばれています。十二指腸は、入り口付近の球部とこれに続く管部からなります。 球部は胃に近いため、胃液に含まれる胃酸による潰瘍ができやすい場所です。 管部には、ファーター乳頭(大十二指腸乳頭)、小十二指腸乳頭(副すい管)と呼ばれる大小2つの乳頭(孔の開いた突起のようなもの)があり、これらの孔から胆汁やすい液といった消化液が分泌されます。 十二指腸では、肝臓でつくられる胆汁と、すい臓から分泌されるすい液によって食べ物の消化を一気に進めます。 肝臓でつくられた胆汁は、胆のうに一時蓄えられ、濃縮されたのち、総胆管を経て十二指腸へと排出されます。 一方、すい臓から分泌されたすい液は、すい管を通って運ばれます。 胃から送られてきた食べ物が十二指腸に入ると、酸の刺激によって十二指腸腺からコレシストキニン・パンクレオザイミンというホルモンが分泌されます。 このホルモンのはたらきかけで、胆汁とすい液が十二指腸の小十二指腸乳頭とファーター乳頭から排出されます。
全長10m―消化と吸収のシステム
口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門まで、全長およそ10mの1本の管が、食べ物の道筋となる消化管です。 食道から胃までを上部消化管といい、小腸から下の部分を下部消化管といいます。 口から入った食べ物は、上部消化管の食道から胃に運ばれて、胃液で1~3時間ほどかけて消化されます。 さらに、胃から十二指腸(小腸)に送られてきた食べ物は、下部消化管で必要な栄養素が吸収され、最後には直腸・肛門から排泄されます。
食べ物が胃へ運ばれるしかけ
食道の役割は、口のなかで噛み砕かれた食べ物や水分を、胃へ送り込むことです。 ただ、食べ物は、自然に胃へと流れ落ちるわけではありません。食道のうねうねとした運動-蠕動運動によって、強制的に胃へと運ばれるのです。そのため、横になっていても、たとえ逆立ちしていたとしても、重力に関係なく食べ物は胃へ運ばれます。 食道の蠕動運動を担っているのは、食道壁にある固有筋層です。輪状筋が上から順に次々と収縮運動をすることで、ゆっくりと食べ物を胃へと押し運んでいきます。食べ物が食道を通過する時間は水分で1~10秒、固形物で30~60秒。胃に届くまでは水分で1秒、固形物で5~6秒です。 一方で、食道には胃からの逆流を防ぐ"防御機能"も備わっています。食道と胃の接合部である「噴門」に、「下部食道括約筋」があり、胃への入り口の開閉を調節しているのです。 括約筋とは、収縮することで管状の器官を閉じる作用をもつ筋肉のことで、ふだんは下部食道括約筋が収縮して、噴門が閉じられています。 しかし、食べ物が噴門に到達すると、下部食道括約筋がゆるんで噴門が開き、食べ物を胃へと通します。そして、食べ物が通過すると、噴門は再び閉じます。これを「噴門反射」といいます。 「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」という諺がありますが、食道の粘膜の感覚は、あまり敏感ではありません。しかし、食べ物や飲み物の刺激には鈍感でも、実際には熱いものや強いアルコール、たばこなどの影響によって、食道の粘膜は障害されます。 とくにアルコールやたばこによる過剰な刺激は、食道炎や食道がんの原因にもなります。食べ物を飲み込むときに痛みがある、しみたり、つかえる感じがあるなどの場合は要注意です。 食道の粘膜には、胃液に含まれる強力な酸や消化酵素を防御する機能はありません。そのため、胃液の逆流にさらされていると、容易に粘膜が傷害されてしまいます。 胃液が逆流する原因は、下部食道括約筋がうまく働かないことが考えられます。また、胃の上部が横隔膜の上に脱出した状態になる「食道裂孔ヘルニア」(235頁)も、胃液を逆流させる大きな原因となります。
食べ物がたどる経路
消化器は、食べ物の消化と吸収にかかわる臓器の総称です。 消化とは、食べ物に含まれる栄養素を、吸収できる形まで胃液や胆汁などの消化液を使って分解するはたらきをいいます。一方、吸収とは、分解された栄養素を全身へ送るために、血液やリンパ液に取り込むはたらきのことです。 消化器には、食べ物の経路となる食道や胃、小腸、大腸などの消化管のほか、肝臓や胆のう、すい臓といった臓器が含まれます。 肝臓は、胆汁の生成をはじめ、有害物質の無毒化、また、糖質やたんぱく質、脂肪などの栄養素の分解や再合成などをつかさどっています。 胆のうは、脂っこいものを食べたときに肝臓でつくられた胆汁を十二指腸へ分泌します。 すい臓は、すい液を分泌して、腸内の塩酸を中和したり、たんぱく質や糖質、脂質の消化吸収を促しています。 これらの臓器すべてが連携することによって、食べ物の消化・吸収がスムーズに行われます。