・・・寺々の鐘が鳴り渡ると爆竹がとどろいてプロージット、プロージットノイヤールという声々が空からも地からも沸き上がる。シャン/\/\と雪ぞりの鈴が聞こえ、村の楽隊のセレネードに二階の窓からグレーチヘンが顔を出す。たわいもない幻影を追う目がガラス棚・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・明りを消して寝ようとしていると窓外に馬の蹄の音とシャン/\/\という耳馴れぬ鈴の音がする。カーテンを上げて覗いてみると、人気のない深夜の裏通りを一台の雪橇が辷って行く、と思う間もなく、もう町のカーヴを曲って見えなくなってしまった。 子供・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・ 野良着をつけると、善ニョムさんの身体はシャンとして来た。ゆるんだタガが、キッチリしまって、頬冠した顔が若やいで見えた。「三国一の花婿もろうてナ――ヨウ」 スウスウと缺けた歯の間から鼻唄を洩らしながら、土間から天秤棒をとると、肥・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・阿呆陀羅経を聞き飽きた参詣戻りの人たちが三人四人立止る砂利の上の足音を聞分けて、盲目の男は懐中に入れた樫のばちを取り出し、ちょっと調子をしらべる三の糸から直ぐチントンシャンと弾き出して、低い呂の声を咽喉へと呑み込んで、 あきイ――の夜・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・ 白塔を出てボーシャン塔に行く。途中に分捕の大砲が並べてある。その前の所が少しばかり鉄柵に囲い込んで、鎖の一部に札が下がっている。見ると仕置場の跡とある。二年も三年も長いのは十年も日の通わぬ地下の暗室に押し込められたものが、ある日突然地・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・「ポッシャン、ポッシャン、ツイ、ツイ、ツイ。 はやしのなかにふるきりは、 いまにこあめにかぁわるぞ、 木はぁみんな 青外套。 ポッシャン、ポッシャン、ポッシャン、シャン」 きりはこあめにかわり、ポッシ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・貨車ばかり黙って並んでいるところへガシャンといって汽罐車がつくと、その反動が頭の方から尻尾の方までガシャン、ガシャンとつたわってゆく面白さ。白い煙、黒い煙。シグナル。供水作業。実に面白くて帰りたくなるときがなかった。 その間に、ついて来・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・んだんふけていて秋のめぐみがこの枝に 宿ると一所にかしの木は 又黄金色にかがやいて 澄んだ御空にそびえますみんな木の葉が散りました、けど御らんなさいかしの木はキリキリシャンと立ってます骨が目立って岩畳な・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 紅は殿の今いった言葉がその意味以上にようわかった。「大丈夫でございます」 シャンとした気丈な様子をしてそのあとにつづいて池に降りた。 向う岸にならんで居る木の小さく見えるほどの大きさ、まわりの草は此の頃の時候に思い思いの花・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・六段をやるのだがテントンシャンとなだらかにゆかず、三味線も尺八も、互にもたれあって、テン、トン、シャン、とやっとこ進む。大いに愛嬌があって微笑した。けれども困るので、尺八氏と相談し夜は静にしてお貰いすることとする。十二月三十日。・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
出典:青空文庫