・・・文学が特殊な人々の愛玩物ではなくて、私たちすべての生活人の社会生活のいきさつと、心持とそこからの発展を意味するものであればある程、社会人としての文学上の素人の意見は文学に大きい評価の価値を占めてくるものである。 おなじ文化でも音楽のこと・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・出来るだけ哀れっぽく、哀願的に聞える様に苦心するのである。 考えて居る間も、他の百姓の様に、故意とらしい吐息をついたり、悲しい顔付をして見せるでもなく、只、ボンヤリ気抜けの仕た様に考え込んで仕舞うのである。自分の満足した考えを得るまで必・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・彼女は手にタワシを下げてしきりに彼に頭を下げながら哀願した。「私は七十にもなりまして、連れ合いも七十で死んで了いまして、息子も一人居りましたが死んで了いました。乞食をしますと警察が赦してくれませんし、どうぞ一つ此のタワシをお買いなすって・・・ 横光利一 「街の底」
・・・ 憤怒があり哀願があるのは「自己」の存在を認識して後に起こる現象である。己が不遇を知らずして天を楽しみ地を喜び平然として生きるものはさらに憐れむに足る。深山に人跡を探れ、太古の民は木の実を食って躍っている。ロビンフッドは熊の皮を着て落ち・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫