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・・・馬がないので馬車追いにもなれず、彼れは居食いをして雪が少し硬くなるまでぼんやりと過していた。 根雪になると彼れは妻子を残して木樵に出かけた。マッカリヌプリの麓の払下官林に入りこんで彼れは骨身を惜まず働いた。雪が解けかかると彼れは岩内に出・・・
有島武郎
「カインの末裔」
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・・・ さて、お妻が、流れも流れ、お落ちも落ちた、奥州青森の裏借屋に、五もくの師匠をしていて、二十も年下の、炭屋だか、炭焼だかの息子と出来て、東京へ舞戻り、本所の隅っ子に長屋で居食いをするうちに、この年齢で、馬鹿々々しい、二人とも、とやについ・・・
泉鏡花
「開扉一妖帖」