・・・を見ると一つ目の神様に聯関して日本の諸地方で色々な植物を「忌む」実例が沢山に列挙されている。その中に胡麻や黍や粟や竹やいろいろあったが、豆はどうであったか、もう一度よく読み直してみなければ見落したかもしれない。それはいずれにしても、ピタゴラ・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・たとえば和声のほうで八度や五度の並行を忌むというのは、つまりあまりに付き過ぎて進行変化がなくなるのをきらうからである。また一方であまりに突飛な音の飛躍も喜ばれないのはつまり離れ過ぎを忌むのである。次から次と不即不離な関係で無理なく自由に流動・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 大正改元の翌年市中に暴動が起った頃から世間では仏蘭西の文物に親しむものを忌む傾きが著しくなった。たしか『国民新聞』の論説記者が僕を指して非国民となしたのもその時分であった。これは帰朝の途上わたくしが土耳古の国旗に敬礼をしたり、西郷隆盛・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ ――オイ、医務室へ行って医師にすぐ来てもらえ! そして薬箱をもってついて来い。 看守長は、お伴の看守に命令した。 ――ああ、それから、面会の人が来てますからね。治療が済んだら出て下さい。 僕が黙ったので彼等は去った。 ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・上士の残夢未だ醒めずして陰にこれを忌むものあれば、下士は却てこれを懇望せざるのみならず、士女の別なく、上等の家に育せられたる者は実用に適せず、これと婚姻を通ずるも後日生計の見込なしとて、一概に擯斥する者あり。一方は婚を以て恩徳のごとく心得、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・我輩が茲に鄙陋不品行の風と記したるは、必ずしも其人が実際に婬醜の罪を犯したる其罪を咎むるのみに非ず、平生の言行野鄙にして礼儀上に忌む可きを知らず、動もすれば談笑の間にもあられぬ言葉を漏らして、当人よりも却て聞く者をして赤面せしむるが如き、都・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・(孟子に放伐論ありなどとて、その書を忌むが如きも小儒の考にして、笑うに堪えたるものなり。数百年間、日本人が孟子を読みて、これがために不臣の念を起したるものあるを聞かず。書中の一字一句、もって人心を左右するにたるものなりとすれば、君臣の義理固・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 体育室の設備のよさは、プロレタリア・スポーツの誇りだ。 医務室がある。 法律相談所がある。 ゴルロフカの母親たちの便利も決して見落されてはいない。「母と子の室」。 あらゆる明るい部屋部屋にゴルロフカの炭坑労働者の男女の・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・いいなずけするまでの交際久しく、かたみに心の底まで知りあう甲斐は否とも諾ともいわるるうちにこそあらめ、貴族仲間にては早くより目上の人にきめられたる夫婦、こころ合わでもいなまんよしなきに、日々にあい見て忌むこころあくまで募りたるとき、これに添・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫