・・・に燃えて、カザン市の貧民窟「マルソフカ」の一部に大学生プレットニョフと暮しているのであった。が、プレットニョフとゴーリキイとが暮しているのは、その有名な貧民窟の中にあっても部屋と名づけられない階段下の廊下の一隅であった。屋根裏へのぼる階段の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ こういう心で、ゴーリキイはカザン市の貧民窟「マルソフカ」の一部屋に、大学生プレットニョフと生活しているのであった。彼の全心に「ぼんやりとした、しかし、これまで見たすべてよりももっと意義のある何物かへの欲求」を抱きつつ。 ゴーリキイ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・女酋長である天照大神はそれを憤って、おそらくその頃の住居でもあった岩屋にとじ籠って戸をしめてしまった。神々は閉口した。そこでその岩屋の前で集会を開いて、何とかして女酋長の機嫌を直そうとした。その時に、氏族中の一人の女であった鈿女命が頓智を出・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
名を聞いて人を知らぬと云うことが随分ある。人ばかりではない。すべての物にある。 私は子供の時から本が好だと云われた。少年の読む雑誌もなければ、巌谷小波君のお伽話もない時代に生れたので、お祖母さまがおよめ入の時に持って来・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・大工は木を削る。石屋は石を切る。二箇月立つか立たないうちに、和洋折衷とか云うような、二階家が建築せられる。黒塗の高塀が繞らされる。とうとう立派な邸宅が出来上がった。 近所の人は驚いている。材木が運び始められる頃から、誰が建築をするのだろ・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫