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・・・男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳な二十七八の若者で、花色裏の盲縞の着物に、同じ盲縞の羽織の襟を洩れて、印譜散らしの渋い緞子の裏、一本筋の幅の詰まった紺博多の帯に鉄鎖を絡ませて、胡座を掻いた虚脛の溢み出るのを気にしては、着物の裾でくるみくる・・・
小栗風葉
「深川女房」
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・・・ 昔は水戸様から御扶持を頂いていた家柄だとかいう棟梁の忰に思込まれて、浮名を近所に唄われた風呂屋の女の何とやらいうのは、白浪物にでも出て来そうな旧時代の淫婦であった。江戸時代の遺風としてその当時の風呂屋には二階があって白粉を塗った女が入・・・
永井荷風
「伝通院」