・・・たとえ労働条件が男と同じになったとしても、女が子を生むためのものである以上、男と同じ水準に達する余力をもたないというのである。 賃銀さえ男と同じになれば婦人労働者の生活が幸福となり、内容において高まると観るのはもちろん皮相でもあるし、非・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・これまでいい意味での女らしさの範疇からもあふれていた、現実へのつよい倦むことない探求心、そのことから必然されて来る科学的な綜合的な事物の見かたと判断、生活に一定の方向を求めてゆく感情の思意ある一貫性などが、強靭な生活の腱とならなければ、とて・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・定子が生れた時、葉子は自分が木部のような者の子を生むという屈辱に堪えないで、他の男との間に出来た赤児であると母にさえ話した。そのような劇しい憎しみを持っている男の俤を伝えている定子が、無条件に可愛いということがあるだろうか。まして葉子のよう・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・歴史をひもとくと、燃き物と紙の有無とは、常にその社会生活の一般状態を雄弁に物語っているようです。作家の思いは、原稿紙がなくなればどんな紙切れへでも、その紙切れへものをかくような時代の作品を書こうと思っているのでしょう。歌をうたうかたは、唱っ・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・愛は、自分だけにしか判らない複雑な微笑を瞳一杯に漂し、話し倦むことを知らない照子の饒舌に耳を傾けた。 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・そこでは左翼的な意識の有無が第一の問題とはならず、或る勤労条件、生活環境におかれた一人の人間が、自分の人間らしい心持から周囲と摩擦し、自分自身の内にある新しいものと古いものとの間の矛盾を感じ、使うものと使われる者との必然的な利害の対立を感じ・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ この社会的事実は、一定の文学組織の有無にかかわりなき一箇のリアリティーである。 私達の生活している現実が右のようであるとすれば、文化・文学を正当に発展せしめようとする忠実な努力は当然、可動的なインテリゲンツィアをして、その能動精神・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・エンボイにはどんな無電設備があったか、遭難後の状況で、その設備の有無が認め得たか得なかったか。美辞麗句の哀悼の詞より、死者を瞑せしめるのは、偽りないその点への科学的な追究の態度であったろうと思う。 この感想を私は或る新聞の短文にかいたら・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
同志小林多喜二がボルシェヴィキの作家として実に偉かったところは、うむことないその前進性である。一つ一つの作品が必ず、それぞれに階級闘争の発展してゆく段階を何かの形で反映している。 われわれプロレタリア文学の仕事に従う者・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・それに本多家、遠藤家、平岡家、鵜殿家の出役があって、先ず三人の人体、衣類、持物、手創の有無を取り調べた。創は誰も負っていない。次に永井、久保田両徒目附に当てた口書を取った。次に死骸の見分をした。酒井家に奉公した時の亀蔵の名を以て調書に載せら・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫