・・・あるいは、そのために運上を増して煙管の入目を償うような事が、起らないとも限らない。そうなっては、大変である――三人の忠義の侍は、皆云い合せたように、それを未然に惧れた。 そこで、彼等は、早速評議を開いて、善後策を講じる事になった。善後策・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ありゃもう自然、天然と雲上になったんだな。どうして下界のやつばらが真似ようたってできるものか」「ひどくいうな」「ほんのこったがわっしゃそれご存じのとおり、北廓を三年が間、金毘羅様に断ったというもんだ。ところが、なんのこたあない。肌守・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・丁度兄の伊藤八兵衛が本所の油堀に油会所を建て、水藩の名義で金穀その他の運上を扱い、業務上水府の家職を初め諸藩のお留守居、勘定役等と交渉する必要があったので、伊藤は専ら椿岳の米三郎を交際方面に当らしめた。 伊藤は牙籌一方の人物で、眼に一丁・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・今一いちいち例を挙げていることも出来ないが、大概日本人の妄信はこの時代にうんじょうし出されて近時にまで及んでいるのである。 大体の談は先ずこれまでにして置く。 我国で魔法の類の称を挙げて見よう。先ず魔法、それから妖術、幻術、げほう、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・日ごろは人民のつつましい日暮しに触れるところのない天皇をはじめとする雲上人、大臣、大将、代議士たちなどが、戦争となると、いつも離れて生活しているだけに、一層効果的な好奇心・感動をもって人民にこまごまとふれはじめた。「一匹の軍馬よりもやすい兵・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫