・・・もしかような時にせめて山岡鉄舟がいたならば――鉄舟は忠勇無双の男、陛下が御若い時英気にまかせやたらに臣下を投げ飛ばしたり遊ばすのを憂えて、ある時イヤというほど陛下を投げつけ手剛い意見を申上げたこともあった。もし木戸松菊がいたらば――明治の初・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・熱情的な農民等が、明治維新によって目醒された自由平等の理想に鼓舞されて、延びよう延びようとする鋭気を、事々に「お上」の法によって制せられ、幻滅を感じるが如何うにかして新生活を開拓しようと努めた跡が、ありありと見える。このむきな人々が、僅か三・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・そして、この新興日本にふさわしい大啓蒙学者は青年のような英気をもって、「夫れ女子は男子に等しく生れて」という冒頭の一句から全篇二十三ヵ条にわたって真に心と肉体の健やかで人間らしい娘、妻、母を生むために必須な社会向上の要点を力説しているのであ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・この蓋世不抜の一代の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでも癒す暇を与えなかった。そうして彼の田虫は彼の腹へ癌のようにますます深刻に根を張っていった。この腹に田虫を繁茂させながら、なおかつヨーロッパの天地を攪乱させているナポレオンの姿を・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫