・・・その赤ちゃんが、居留地の西洋の嬰児が着る通り裾の長い、白い洋装に纏まれている。女の子は、私共を見ると、直ぐ引かえして行った。「お父さん、お客さまあ」と、晴やかな声が聞える。――三浦実道氏に、永山氏からの名刺を出した。 崇福寺など・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・彼と、今自分の体の中で次第に重く、何とも云えぬ可愛いさで重く重くと育って来る嬰児とに向って、彼女の心臓は打っている。「神よ、護り給え――」 然し、愛するリョーニャと自分の可愛い可愛い子と三人の暮し、その行末――その先の行末――。ダー・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ 無事に一週間経って退院となると、この帖簿のなかみがカードに書かれ、母子の後を追って、住んでいる町の母子健康相談所か嬰児健康相談所かにまわされる。そこから必要に応じて医者も派遣される。無料で健康相談にのって貰え、事情によっては小児科病院・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・四月、「嬰児殺し」を『第一義』に発表。十月文芸座によって「津村教授」初演。菊池、久米、岡本、中村氏等と劇作家協会を創設。三十四歳の時である。 翌一九二一年。「坂崎出羽守」を発表。翌月市村座で初演。「嬰児殺し」有楽座で初演。 一九二二・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ この物語では、女主人公の苦難や、首なくしてなおその乳房で嬰児を養っている痛ましい姿が、物語の焦点となっているが、しかしこの女主人公自身が熊野の権現となったとせられるのではない。ただ首なき母親に哺育せられた憐れな太子と、その父と伯父との・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫