・・・しかしその場合ほとんどすべてが商業主義の出版と、営利的なジャーナリズムにたいして、文学・芸術の独自性を守ろうとしたことが動機です。アメリカやアイルランドの小劇場は興業資本にたいして、金儲け専一でないほんとうの劇場、ほんとうの演劇をもちたいと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ だから日本のように非常に短い時間に、非常に沢山のフィルムを、営利会社が有っている映画館の需要を充たすために粗製濫造をする、そういう悲劇は製作者にとってないわけである。それで今までプドフキンでも、エイゼンシュテインでも非常に長い時間かか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・日本のように、明治以来、よろめきつつ漸々前進しつつある近代の精神を、精神の自立的成長よりテムポ迅い営利的企業がひきさらって、文学的精励、文壇、出版、たつき、と一直線に、文学商売へ引きずりおとしてしまう現象は、中国文学にまだ現れていないのでは・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ゴーリキイは感受性の鋭い、智的というより感覚的な作家であって、目撃した人間の微細な動作、声や目の感じなど鋭利にとらえているけれども、人間と人間との輪廓、人間と人間との間に生じている遠近法などの把握では、常に何か茫漠としている。そういう部分が・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・広告心理研究の、これは、積極的手段の一例、愛郷心及営利心を利用する方法の実例として好箇のものであるに違いない。―― 雨がやんだ。靄が手摺の下まで迫って来た。今にもう少し暗くなると、狭い温泉町の入口に高く一つ電燈が点る。特に靄のこめた・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ここに、営利会社というものの本質からの撞着の姿があるし、働く男女のおかれている社会の条件のむきつけな露出もあると思う。 国家が賃銀制その他をきわめてゆくからには、働く女のための施設について、制度としてそれを各工場や経営に行わせてゆくのは・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・それは、フランス劇文学におけるアポローであるモリエールと十七世紀の大古典派の宝ラ・フォンテーヌの作品の美しい絵入り本の出版とその売捌きである。一八二五年、ロシアでは有名な十二月党の反乱が悲劇的終結をとげた年、愈々この出版事業にとりかかった二・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ういう雑誌はむずかしすぎるという目で迎えられ、日本の婦人の社会生活の全局から見れば、その潮先ははやくつよく進み出ているが、重くひろくくらい襞々をたたんだその裾は伝統のなかに引きすえられている実状から、営利の事業として出版をつづけてゆかれなく・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・紙が闇で、それは刻々に値上りし、紙のタヌキ御殿が出現して新聞を賑わす有様は、出版の自由がどんなに歪み、単に営利化されているかという事実を表明している。一頁あたりの闇紙が高価ならば、その一頁からうんと儲けなければならないのが、資本主義の出版企・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・て生活している時、その人口の男女比率で婦人が三百万人も多い時、これらの勤労する全人民を、人口の半分以上の婦人のよろこびや悲しみや希望を表現する人間の表情としての文化が昔のままの少数の人、あるいは独占的営利主義の産物だけでありえようか。文化会・・・ 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
出典:青空文庫