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・・・いくら居なくなったと言っても、まだそれでも二三年前までは居ました……この節はもう魚も居ません……この松林などは、へえもう、疾くに人手に渡っています……」 口早に言ってサッサと別れて行く人の姿を見送りながら、復た二人は家を指して歩き出した・・・
島崎藤村
「岩石の間」
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・・・「まったくはあ、偉えもんだ……」 彼は思わずもつぶやく。 そして、自分の囲りにある物という物すべてから、いきいきとして、真当なあらたかな気が立ち上って来るように感じたのである。 一本の樹でもどんな小さな草でもが皆創られた通り・・・
宮本百合子
「禰宜様宮田」