・・・往来近いところは長い乱れた葦にかくされているが、向う側の小店の人間が捨てる必要のある総ての物――錆腐った鍋、古下駄から魚類の臓腑までをこの沼に投げ込むと見えアセチリン瓦斯の匂いに混って嘔吐を催させる悪臭が漲っている。 蒸気の艫へ、三人か・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ニュールンベルグの国際裁判の公判廷で、ゲーリングは自分らの惨虐をふたたびフィルムの上に展開されて、文字どおり嘔吐したと伝えられている。その命令を下した人物さえ、それを見直すにたえないほどの惨虐が行われたのであった。何十万人かがその餌食とされ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・売笑婦の増大、半売笑婦人の増大は、偽善めかした貞操論者の顔の上へはきかけられた資本主義社会の嘔吐である。失業を増大させるしか手腕をもたない冷血貪慾な支配者たちは、彼らを生んだ母なる性の屈辱をもって自身の穢辱をさらしているといえるのである。・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・私たちに嘔吐を催させるものも、彼には Extase を起こす。私たちが赤面する場合に彼は哄笑する。彼は無恥を焦点とする現実主義者である。――Iには売女を思わせるものがある。おしろいの塗り方も髪の結いぶりも着物の着こなしもすべて隙がない。de・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫