・・・それでドウも二宮金次郎先生には私は現に負うところが実に多い。二宮金次郎氏の事業はあまり日本にひろまってはおらぬ。それで彼のなした事業はことごとくこれを纏めてみましたならば、二十ヵ村か三十ヵ村の人民を救っただけに止まっていると考えます。しかし・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・しかるに文明の進むと同時に人の欲心はますます増進し、彼らは土地より取るに急にしてこれに酬ゆるに緩でありましたゆえに、地は時を追うてますます瘠せ衰え、ついに四十年前の憐むべき状態に立ちいたったのであります。しかし人間の強欲をもってするも地は永・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 武ちゃんは、おうらいを あちらこちらと みまわしました。けれど、やはり わかりません。「ラオやさんは どこに いるのだろう、ほんとうに おかしいな。」と、武ちゃんは ぼんやり たって いました。 空は 青く はれて いまし・・・ 小川未明 「秋が きました」
・・・ 大きな ぞうが、おうらいを あるいて きました。サーカスが、どこかへ いくのです。 ちかちか ひかる、青い きものを きた おねえさんと、くろい ズボンを はいた 男が、むちを もって、ついて きます。「こわいわ。」と、よ・・・ 小川未明 「お月さまと ぞう」
・・・この冬の海に船を出されるものでなし、後を追うこともできないではないか。」と、あるものは、絶望しながらいいました。 みんなは、うなずきました。「ほんとうにしかたがないことだ。」といいました。しかし、五人のものだけが頭を振りました。・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・ しかし、このことは、一般が冷淡なる程、しかく差迫っていない問題であろうか、すでに、社会上の役割を終った老人等が、彼等の老後、貧困に陥り、衣食に窮するに至るとせば、当然、その責をこの社会が負うことを至当とするからである。これについては、・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・知識というものは、時に虚偽を本とする社会をいかに美しく見せるかという場合に必要であろうけれど人間の良心は、知識によって証明もされなければ、また負うところもないのである。そして、純情のみが、私達の求める希望の社会を造るのであります。 知識・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・徴兵官は私の返答をきくとそりゃ惜しいことをしたなと言い、そしてジロリと私の頭髪を見て、この頃そういう髪の型が流行しているらしいが、流行を追うのは知識人らしくないと言った。私はいやこんな頭など少しも流行していませんよ、むしろ流行おくれだと思い・・・ 織田作之助 「髪」
・・・いっそ易者に見てもらおうか。 易者はふっと首を動かせた。視線の中へ、自動車がのろのろと徐行して来た。旅館では河豚を出さぬ習慣だから、客はわざわざ料亭まで足を運ぶ、その三町もない道を贅沢な自動車だった。ピリケンの横丁へ折れて行った。 ・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・スタンブールから此ルシチウクまで長い辛い行軍をして来て、我軍の攻撃に遭って防戦したのであろうが、味方は名に負う猪武者、英吉利仕込のパテント付のピーボヂーにもマルチニーにも怯ともせず、前へ前へと進むから、始て怖気付いて遁げようとするところを、・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
出典:青空文庫