・・・「ところが、おっさん、少々別条があるんですよ。きみたちの仕事を、ちょっと無駄にしたぜ。一杯買おう、これです、ぶつぶつに縄を切払った。」「はい、これは、はあ、いい事をさっせえて下さりました。」「何だか、あべこべのような挨拶だな。」・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・蹴ったくそわるいさかい、亭主の顔みイみイ、おっさんどないしてくれまんネいうて、千度泣いたると、亭主も弱り目にたたり目で、とうとう俺を背負うて、親父のとこイ連れて行きよった。ところが、親父はすぐまた俺を和泉の山滝村イ預けよった。山滝村いうたら・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・彼等はそれぞれ、おっさん、鯨や、とか、どじょうにしてくれとか粋な声で注文して、運ばれて来るのを寿司詰の中で小さくなりながら如何にも神妙な顔をして箸を構えて、待っているのである。何気なくふと暖簾の向うを通る女の足を見たりしているが、汁が来ると・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・「おっちゃん、うちも中イ入れて」 と、寄って来た。「よっしゃ、はいりイ。寒いのンか。さア、はいりイ」「おおけに、ああ、温いわ。――おっちゃん、うちおなかペコペコや」「おっさんもペコペコや。パン食べよか」「おっちゃん、・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・近所の小供たちも、「おっさん、はよ牛蒡揚げてんかいナ」と待てしばしがなく、「よっしゃ、今揚げたアるぜ」というものの擂鉢の底をごしごしやるだけで、水洟の落ちたのも気付かなかった。 種吉では話にならぬから素通りして路地の奥へ行き種吉の女房に・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫