・・・それやったら、よけい教え甲斐がおますわ」 肺病を苦にして自殺をしようと思い、石油を飲んだところ、かえって病気が癒った、というような実話を例に出して、男はくどくどと石油の卓効に就いて喋った。「そんな話迷信やわ」 いきなり女が口をは・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・わてはやっぱし大阪で三味線ひいている方がよろしいおますわ」 と言う婆さんを拝み倒して、村から村へ巡業を続け、やがて紀州の湯崎温泉へ行った。 温泉場のことゆえ病人も多く、はやりそうな気配が見えたので、一回二十銭の料金を三十銭に値上げし・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 帰って来たのかとはいって行くと、「素通りする人がおますかいな。あんたはノッポやさかい、すぐ見つかる」 首だけ人ごみの中から飛び出ているからと、「千日堂」のお内儀さんは昔から笑い上戸だった。「あはは……。ぜんざい屋になったね・・・ 織田作之助 「神経」
・・・ そんな風に心細いことを言っていたが、翌朝冬の物に添えて二百円やると、「これだけの元手があったら、今日び金儲けの道はなんぼでもおます。正月までに五倍にしてみせます」横堀はにわかに生き生きした表情になった。「ふーん。しかし五倍と聴・・・ 織田作之助 「世相」
出典:青空文庫