・・・の話である。そうして東京みやげの「江戸絵」を染めたアニリン色素のなまなましい彩色がまだ柔らかい網膜を残忍にただらせていたころの事である。こういうものに比べて見たときに、このいわゆる「油絵」の温雅で明媚な色彩はたしかに驚くべき発見であり啓示で・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・若先生も典型的な温雅の紳士で、いつも優長な黒紋付姿を抱車の上に横たえていた。うちの女中などの尊敬の対象であったようである。その若先生が折々自分の我儘な願いに応じて「化学的手品」の薬品を調合してくれたりした。無色の液体を二種混合するとたちまち・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・ まず第一楽章六句はおのずから温雅で重厚な気分に統一されている場合が多いようである。ここでは神祇釈教恋無常の活躍は許されない。テンポで言えばまずアンダンテのような心持ちである。第二楽章十二句になるとよほど活発にあるいはパッショネートにな・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・但し其これを議論するに声色を温雅にするは上流社会の態度に於て自然に然る可し。我輩に於ても固より其野鄙粗暴を好まず、女性の当然なりと雖も、実際不品行の罪は一毫も恕す可らず、一毫も用捨す可らず。之が為めに男子の怒ることあるも恐るゝに足らず、心を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫