・・・しかし、若し、世界が現状のまゝの行程を辿るかぎり、いかに巧言令辞の軍縮会議が幾たび催されたればとて、急転直下の運命から免れべくもない。こう思って、何も知らずに、無心に遊びつゝある子供等の顔を見る時、覚えず慄然たらざるを得ないのであります。・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・私自身にとっても、憧憬、煩悶、反抗、懐疑、信仰、いろ/\と、心の推移と、其の時代々々の思想と生活の異った有様とを顧みて、それ等をあり/\と目の前に描くことができます。 何といっても、私が最も、年齢について、悲哀を感じたのは、その三十の年・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
平和を目的にして、武器が製造せられ、軍備がなされるならば、其の事が既に、目的に対する矛盾であることは、華府会議の第一日にヒューズが言った通りであります。 私達は、黒人に対する米人の態度を見、また印度の殖民地に於ける英人の政策を熟視・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・七 北京大学の季大釧、季石曾などの運動が、上海に於ける陳独秀等の参加によって更に四方に及んだというのも、必ずしも或る人の云うが如くワシントン会議に於て米国が支那を助けなかった反動であるとばかりに考えるのは間違っている。この運動に・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・ 三七日の夜、親族会議が開かれた席上、四国の田舎から来た軽部の父が、お君の身の振り方につき、お君の籍は金助のところへ戻し、豹一も金助の養子にしてもろたらどんなもんじゃけんと、渋い顔して意見を述べ、お君の意嚮を訊くと、「私でっか。私は・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 当時、まだそんな言葉は出来ていなかったと思うが、いわゆる知識階級――薬の効目などというものには全く懐疑的で、また、全快写真の八百長さ加減ぐらいは百も承知している筈の連中にしても、たとえば、「――実は、少々胸がわるいんだが、まだ川那・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・このようにして懲罰ということ以外に何もしらない動物を、極度に感情を押し殺したわずかの身体の運動で立ち去らせるということは、わけのわからないその相手をほとんど懐疑に陥れることによって諦めさすというような切羽つまった方法を意味していた。しかしそ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ころにあらず、軍夫となりてかの地に渡り一かせぎ大きくもうけて帰り、同じ油を売るならば資本をおろして一構えの店を出したき心願、少し偏屈な男ゆえかかる場合に相談相手とするほどの友だちもなく、打ちまけて置座会議に上して見るほどの気軽の天稟にもあら・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・しかしながらこの意欲そのもの、すなわち生の実質にかかわりなく純粋に形式的に行為を決定するということは、実は非常に意味のあることであって、私見によれば、われわれはかくするときにのみ道徳的懐疑を免れ得るのである。行為の決定にあたって、ひとたびわ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・のみならず、かくまちまちな所説が各々真理を主張することが真理そのものの所在への懐疑に導くことはいつの時代でも同じことであった。あたかもソクラテスの年少時代のギリシアのような状態であった。実際それらの教団の中には理論のための理論をもてあそぶソ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫