・・・ モナ・リザは、彼女の良人に、レオナルド・ダ・ヴィンチとの間に生まれたような複雑微妙な諧調を感じていただろうか、おそらくそうではなかったろう。そして同時に、モナ・リザは、自分のなかに湧きいでた新しい人生の感覚について、それが、どういう種・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・の活動にあった弱点から押しても、現在文学的野望に燃える多数の作家たちが、プロレタリア文学における独特な長所を発見しようと志し、同時に、芸術作品の構成の豊富さ、諧調における明暗の濃さ、力感のつよさなどを追求するのはむしろ必然だと思う。われわれ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・真心を以て芸術に参するものは、自己に許された範囲に於て、最大・最高の諧調を見出したいという祈願を、片時も捨てかねるものと思う。然し、仕事に面して、どんなことを仕ようが自分以上にはなれない。自分の内に在るだけの輝きほか、自分を照すものはない。・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・――私は不意に自分を囲んだあの静けさ、諧調ある自然の沈黙に打れ感動した心持を今だに忘られない。私は、その時ひとりでに六尺ばかりに延びた馬酔木がこんもり左右に連り生え、云うに云われぬ優しい並木路で区切られた草原の一隅を見つけ出した。そこに腰を・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・日本文化連盟会長松本学氏賛助、会員二十三名。行動をさける建前で、文壇のほか美術、楽壇からの参加も見る筈であり、綱領、会則等の規定なく、会員の加入脱会も自由という「フリーな立場で日本の神経を掘り下げる」組織としてあらわれた。会員の顔ぶれとして・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ しとやかにゆるい諧調は千世子の心をふんわりと抱えて揺籃の裡に居る様な気持にした。 篤はしずかに歌をつけた。 低いゆーらりゆーらりとした歌に千世子は涙をさそわれる様な心に柔さが出て来た。 ほんとうに好い曲ですね。・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 精神と肉体との愛における統一と、そのあらわれとして貞潔がある場合、その自然さ、よろこび、平安の深さは、人間の男女が感ずるすべての愉悦のなかで最も諧調にとみ、創造の魅力に満ちていると思う。 純潔ということも相対的で、愛するものに対し・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・磨きぬかれた舞踊の技術と情緒の含蓄と、しかもその情緒を貫く愛の思いがいかにも睦み合う夫と妻との諧調を表現していて、全く感動的であったと思う。広いホールに、時間が来たのにまだ現れない前線からの良人を待って、踊りを所望されたカッスル夫人が、不安・・・ 宮本百合子 「表現」
・・・の現実にむき出されている矛盾が、おのずから、これらの諸文化団体を含む支配的傾向の特殊な一面性を告白しているのである。 伝えきくところでは、長谷川如是閑氏が「新日本文化の会」の会長になるそうである。『日本評論』の匿名リレー評論をよむと、日・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・元大審院部長・元司法次官三宅正太郎という人が、中央労働委員会の会長に就任した。これは、世界にも類のない民主化の方法である。 同時に主要食糧供出に対する強権発動のことが云われている。申告すべき退蔵物資の十六種目一覧表も載った。ここに又一つ・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫