・・・けれども、後進の日本は、民法のブルジョア民法としての改訂さえやっと一九四六年に行う状態である。福沢諭吉が提案した明治年代の日本における資本主義興隆期にはそれを行わず、半封建憲法・民法で押してきた。その結果、わたしたちの日常生活のあらゆる面と・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・この概観は初め一九二二年に現れ、次いで一九三四年に改訂版が出た。ウエルズは大系を五分の一ほどに圧縮し、内容も殆ど全部かき直した。それはそうであったろう。一九二二年から後の十年間こそ今日の世界史の大動揺がその底に熟しつつあった深刻な時代であっ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・それは一階梯にすぎず殿堂そのものではない。 この事実は、芸術家の大きい魂の真実にふれている、常に自己を超えようとする本能的な焦慮 ○限界の突破 そして、このことは平安を彼から奪うことを予約している。しかも 彼が芸術家・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・薄暗い部屋だから、眼に力をこめて凝視すると、画と実物の貝殼などとのパノラマ的効果が現れ、小っぽけな窓から海底を覗いて居るような幻覚が起らない限でもないのだ――大人にパノラマが珍重された時代が我々の一九二六年迄かえって来る。―― 間もなく・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・今日すでにその階梯が、対立する二つの作家団の日常の文学的行動にあらわれている客観的事実だ。〔一九三一年五月〕 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・ 次第にお城の柱に朝日が差して来る頃になると、鏡の前に立ったまま、王女の着物は、ほっそりした若木の林が、朝の太陽に射とおされる模様に変りました。海底の有様は柔かい霧の下に沈み、輝く薔薇色の光線の裡に、葉をそよがせる若い樹が、鮮やかな黒線・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・然しそれを見越しても、その時にはその時必然の階梯を、みっしり踏んで置くことは大切と思うのです。 私は、これ等の貧しい内省の裡から決して、一般的な訓戒や警告を抽き出そうとは思いません。多くの若い婦人は、決して、私ほど甘えて人生を見てはいら・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・そこの暗い海底のようなメリンスの山の隅では痩せた姙婦が青ざめた鰈のように眼を光らせて沈んでいた。 その横は女学校の門である。午後の三時になると彩色された処女の波が溢れ出した。その横は風呂屋である。ここではガラスの中で人魚が湯だりながら新・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫