・・・ 午後になって、日がいつもの角度に傾くと、この考えは堯を悲しくした。穉いときの古ぼけた写真のなかに、残っていた日向のような弱陽が物象を照らしていた。 希望を持てないものが、どうして追憶を慈しむことができよう。未来に今朝のような明・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・寺の本堂、廊下、仏像なども立体的に、いろいろな角度や、光りでとれるからだ。それは『アジアの嵐』などでもわかる。どこかですぐれた監督が映画にするといいと思う。一昨年PCLから申込みがあったが、どうしたわけかそのままになっている。 芝居では・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・ けれども、あるときふっと角度をかえて考えてみたら、なんだ、これはまことに平凡なことを述べているにすぎないのである。それから私はこう考えた。文学に於いて、「難解」はあり得ない。「難解」は「自然」のなかにだけあるのだ。文学というものは、そ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・顔面に対してかなり大きな角度をして突き出た三角形の大きな鼻が眼に付く。 アインシュタインは「芸術から受けるような精神的幸福は他の方面からはとても得られないものだ」と人に話したそうである。ともかくも彼は芸術を馬鹿にしない種類の科学者である・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函数などの概念を注ぎ込むよりも遥かに早く確実に、おまけに面白くこれらの数学的関係を呑み込ませる事が出来る。一体こういう学問の実際の起原はそういう実用問題であったではないか。例えばタレー・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・の視覚的代表者をどこから拾って来るか、それをいかなる距離、いかなる角度、いかなる照明で、フィルムの何メートルに撮影し、それを全編のどの部分にどう入れるか、溶明溶暗によるかそれとも絞りを使うか、あるいは重写を用いるか。これらの選び方によって効・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・第一、実地ではこんなに演奏者を八方から色々の距離と角度で眺めることは不可能であるが、そればかりでなく映画のカメラは吾らの眼の案内をして複雑な管弦楽の編成の内容を要領よく解明してくれる。曲の各部をリードしている楽器を時々に抽出してその方に吾々・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・そうして彼女の心の態度はこのライトモチーフの現われるたびごとに急角度で転回する。そうしてその一転ごとにだんだんにそうして不可避的に最後のクライマックスに近づいて行くのである。 太鼓の描くこの主題の伴奏としてはラッパのほかに兵隊の靴音があ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ この種の映画でよくある場面は一群の人間と他の一群の人間とが草原や川原で追いつ追われつする光景をいろいろの角度からとったものである。人間が蟻か何かのように妙にちょこちょこと動くのが滑稽でおもしろい。 千篇一律で退屈をきわめる切り合い・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・とどなるのをきっかけに、画面の情調が大きな角度でぐいと転回してわき上がるように離別の哀愁の霧が立ちこめる。ここの「やま」の扱いも垢が抜けているようである。あくどく扱われては到底助からぬようなところが、ちょうどうまくやれば最大の効果を上げうる・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫