・・・アメリカの物質的方面を恐ろしい程体現して、自分はいくらでも、素晴らしい着物を着て出来る丈美くしく交際社会の花形となって居ればよいのだ。良人は自分のある御かげで、彼が如何に物質的豊富であり、女性を遇する方法を知って居るかを人に誇ることが出来る・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ * 面白い本と云えば、羽仁五郎『ミケルアンジェロ』小倉金之助さんの、『家計の数学』山の好きな方に、チンダル『アルプスの旅より』又は『アルプスの氷河』など興味あるでしょうし、女の活動面が新しく展かれてゆく一つ・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・これまで日本歴史の家系譜の中にはっきり名が現われている婦人は藤原家も道長の一族で后や、中宮になったり王子の母となったりした女性だけである。美しきヘレネのように、藤原一族の権力争いのために利用価値のあるおくりもの、または賭けものであった婦人達・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 大瀧のひろ子、基、倉知の子のことを思いあわれになり、国男、スエ子、英男、自分が母を生みの母を持つことの幸福をしみじみと思った。家計が立てば、子には父より母だ。ひろ子の実際的な、感情の流露しない大人びたところを思うとあわれ。又、倉知の子・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・たちの下に、なったばかりの花形、或はなろうとしている花形が多勢いる。彼女、彼が機会あるごとに過去のバレーやオペラの形式を利用して「自分」を、見物に印象づけようとする熱心さがつよい。「蹴球選手」において、「ゴトブ」の連中の爪先で踊る技術か・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 父が外遊中、家計はひどくつましくて、私たちのおやつは、池の端の何とかいう店の軽焼や、小さい円形ビスケット二十個。或はおにぎりで、上野の動物園にゆくとき、いつもその前のおひるはお握りだった。母はずっとあとになってからでも、小さい子供たち・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・父権につれて尊重され始めた家系というものがその利害や体面のため、同族の女性をどれほど犠牲にして来たかということは、日本の武家時代のあわれな物語の到る所に現れている。ヨーロッパでも家門の名誉ということを、その財産の問題とからめて極端に重大に視・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ そこで、当時の意向では、ほんの当分の方便として、彼女は従来の生活をすっかり改め、幸、裁縫が上手なのを利用して、或る小学校の教師になりました。 家兄の許を離れ、自己の生活を営んで幾年か経つ間には、何時か、自分達の希望が遂げられる機会・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・その税を、どういう懐の中から捻出してゆかなければならないかといえば、千八百円ベースあるいは二千四百円ベースの家計の中からです。通勤・通学のための交通費のおそろしいはね上り、またこの夏から一段とひどくなった諸物価のはねあがり。婦人靴下一足千何・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・ 物資の問題と家計の配慮は、特別女の日常には切実で、そのことでは、一般的な共感におかれているわけだが、文化のこととしてこの間の消息を眺めると、ここにも奇妙な現象がある。女子大学の家政科というようなところで、生計指導のための展覧会を行った・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫