・・・ アグネス・スメドレーはアメリカの下層生活から育って来た革命的ジャーナリストである。彼女の「女一人大地をゆく」に溢れているつよい生活力は、彼女の政治的な成長とともに、そのアナーキスティックな要素を力づよく人民の発展的な歴史性に統一させた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・と「仮装人物」が「新生」と異るように異るものであった。藤村はおどろくばかり計画性にとんだ作家で、その自己に凝結する力は製作の態度から日常生活の諸相へまで滲み透っていた。藤村の生きかたでは、逸脱は或る意味で彼の人生にとって過誤であった。けれど・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・彼女は精力的な、社会の下層から身をのし上げた、有名な、派手な、素晴らしく天才的な外科医を愛するようになった。アンネットは、その男が征服的な、革命的な、精力に満ちた社会的闘士でなかったら愛するようにはならなかったろう。その男も、アンネットがア・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・けれども文化の感覚が成長して、科学の面白さと美しさとの独自な本質の理解が私たちの生活にゆきわたって来るにつれて、ファーブルが、いわゆる文学的な表現にこって、昆虫に人間社会そっくりそのままの仮装をさせた努力をむしろ徒労として感じるようになって・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
どの新聞にも近衛公の写真が出ていて大変賑わしい。東日にのった仮装写真は、なかでも秀抜である。昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたたる島田娘の姿になって、眼ざしさえ風情ありげ・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
・・・ ストリンドベリーは、偽善に対する彼のはげしい憤りと女性の動物性への侮蔑から、下層の男の野性を、征服者として登場させている。こういう実例は、日本の現実の中にも少くない。しかしローレンスは、人間としての女性をはずかしめる者としてではなく、・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・もしこの架空会見記をどこかに一人の女性として生活しているモデルと仮想されている人が読んだならば、彼女は描かれた女主人公榕子の人間性の粗末さと発展の可能性の失われている性格について抗議のしようもないひそかな憤りを感じているのではないだろうか。・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・そして「ギャラップの調査員は大部分が女子で、しかも一定の割当人員のだれを選ぶかは調査員自身の決定にまかしてあるため、労働者や下層階級の人を避ける傾向があり、従って多く民主党支持である下層階級の意見が適当に代表されなかったのは、リテラリ・ダイ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・「仮装平時閲兵のために、暑気あたりに苦しんでそこに卒倒した不幸な若い婦人をそのまま放っておくほど、大英国の軍規はきびしいのだろうか」 すっきりとした初夏の服装で、大きめのハンド・バッグを左腕にかけ、婦人兵士の最後の列の閲兵を終ろうとして・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ こういう生活地力の方からの大衆的感情、感覚なしに、作家や評論家が従前のとおり大衆対作家・評論家というような位置を仮想しつづけて、どういう作品を大衆に与えるか、という風に問題を出したのでは真の大衆化はないし、文学における人間性の再表現も・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
出典:青空文庫