・・・こういう女の職業についての奇妙な不公平も、要するに過去の久しい間、女の職業というものについて女として求める確乎性が社会的に認められていなかったからです。女自身、ましてインテリゲンツィアの女のひとが、とかく抽象的に自己完成のための仕事を偏重し・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・しかし、感覚的なものとして過ぎてゆく性質の幸福感が、何かそのひとの生活力の一部にまで摂取され、何かその人をささえる生活上の確乎とした力となり、精神に精彩を与えるものとなるには、ただ湧いたり消えたりする幸福感ばかりを追って、その条件を作ろうと・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・パセティークな、優しい、歴史性を確固としたがえた交響楽です。私は、本当に自分が芸術家として又一つ力強く人生に向いて背中を押し出されたような、新しい現実の面を我ものとしつつあることを感じて居るのです。このように私の経験。悲劇の発生を不可能なら・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・カロッサが大戦後のドイツの生活のなかから希望と精神の確乎とした人間成長の可能を見出だそうとした熱意が限界を持ちながらも真面目に伝えられています。はじめて小説らしい小説を読んだから、感銘が新鮮でいつか余程前にジャムの「夜の歌」を読んでもらって・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・文学の本質は、くりかえして云うが、その芸術の魅力によって、人間の心持を高める一つの確固不抜な要素をもっているものであり、少くとも文学として或る作品を手にとりあげた時、大衆は、自分の心持が人間として高められることを自然に求めている。勿論、直接・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ それでも、両者の或る点での対立を含みつつ、文学全体としての文化の面に於ける存在の確固性というものは明瞭に意識されていた。ある人は文学のためにプロレタリア文学運動等というものは「花園を荒すものである」と思っていたであろうし、反対に、文学・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・の内での生活は、特に老パルチザンである指導者アントーヌィッチの洞察と生活の意義に対する目標の確固不抜性、人生に対する愛と評価との態度は作者の心に湧いている生きることのよろこびとともに鳴って描かれている。後篇の前半を占めるこの部分は地球の到る・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・文相天野貞祐が、各戸に日の丸の旗をかかげさせ、「君が代は千代に八千代にさざれ石の、巖となりて苔のむすまで」と子供の科学では解釈のつかない歌を歌わせたとして、ピチピチと生きてはずんで刻々の現実をよいまま、わるいままに映している子供の心に、何か・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ 家庭購買組合も見たところ大きい規範で経営されてはいるけれど、各戸を実際にまわっている実務員が報酬を歩合い制でもらっているものだから、月の売上げの多額なところへ便宜を計るという致命的な弱点をもっている。少人数の家では少額ならざるを得ない・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・をよんで、読者諸君はあの作品が従来の同志小林の作品に比べて、大変落付きがあり、文章にまでも大らかな確乎性が漲りはじめていることを感じたであろう。何故そういう変化が作品の上に起ったか。ブルジョア批評家がよく云うように、ただうまい、まずいの問題・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
出典:青空文庫