・・・殊にこの頃では伊藤、河東、高浜その他の諸子を煩わして一日替りに看病に来てもらうような始末になったので、病人の苦しいことは今更いうまでもないが、看病人の苦しさは一通りでないということを想像すればするほど気の毒で堪らなくなる。勿論看病のしかたは・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
○明治廿八年五月大連湾より帰りの船の中で、何だか労れたようであったから下等室で寝て居たらば、鱶が居る、早く来いと我名を呼ぶ者があるので、はね起きて急ぎ甲板へ上った。甲板に上り著くと同時に痰が出たから船端の水の流れて居る処へ何心なく吐くと・・・ 正岡子規 「病」
・・・「どうもきみたちのうたは下等じゃ。君子のきくべきものではない。」 ふくろうの大将はへんな顔をしてしまいました。すると赤と白の綬をかけたふくろうの副官が笑って云いました。「まあ、こんやはあんまり怒らないようにいたしましょう。うたも・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・「なるほど。」貝の火兄弟商会の鼻の赤いその支配人はこくっと息を呑みながら大学士の手もとを見つめている。大学士はごく無雑作に背嚢をあけて逆さにした。下等な玻璃蛋白石が三十ばかりころげだす。「先生、困るじ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ みじかい袂に、袂糞と一緒くたに塩豆を入れたりして居る下等な姑から、こんな小言はききたくないと云う様な気にはなっても、気の弱い、パキパキ物の云えないお君は、只悲しそうな顔をして、頭をゆすったり夜着を引きあげたりするばかりであった。 ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
要件 四月二十六日一、出版プランについて党でとり上げるにしろ、イニシアは加藤が自分でとったものと感じていることを十分念頭におく必要があるでしょう。 きのうも「共産党の婦人部がどう思ったってかまわな・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・ 男性の中にも、下等な心情の人はある。従って、下等な心情の作家もあり得る。そこ許りを見て、私共にはあんな事を云いながら、とは云うべきでないだろう。 人類の文化の進展は、未来に私共の心も躍るような光明を予想させる。従って、自分は自分等・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ たとえば新交響楽団の演奏会のおりおり、ハープの弾奏者として舞台に現れる加藤泰通子夫人があります。日本に演奏者の少いハープがこの夫人の趣味にかなったことから稽古をはじめられたでしょう。はじめは全く生活に余裕ある夫人のよい一つの仕事であっ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・婦人民主クラブの成立に関係をもった幾人かの婦人が話をした。加藤シズエ夫人もその一人だった。もうそのころ立候補がきまっていた夫人は、婦人と政治的自覚について話し、彼女の見たアメリカの選挙を手本とした。民主的な議会政治では議席を多くしめる政党が・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・きょうはお目にかかるつもりで出かけたところが、生憎加藤氏がお休みをおとりになっているので都合がつかず残念をいたしました。なかなか暑気が厳しいがいかがですか。盗汗は出ませんか。熱は? きょう中川によって昨今のまま一ヵ月お弁当をつづけておきまし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫