・・・市中の目ぼしい建物に片ッぱしから投げ込んであるくために必要な爆弾の数量や人手を考えてみたら、少なくも山の手の貧しい屋敷町の人々の軒並に破裂しでもするような過度の恐慌を惹き起さなくてもすむ事である。 尤も、非常な天災などの場合にそんな気楽・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒量を過すに於てをや、男女共に慎しむ可きことなり。是れも本文の通りにて異議なけれども、歌舞伎小唄浄瑠璃を見聴くべからず、宮寺等へ行くことも遠慮す可しとは如何ん。少しく不審なきを得ず。抑も苦楽相半するは人生・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・氏が、尾崎、榊山氏のルポルタージュに自己感傷の過度を批難しながら、林房雄氏のレトリックに触れないことは読者にとっては不思議のようである。「太陽のない街」を実例として、ルポルタージュと記録小説との、芸術化の時間的過程の相異を明らかにしようとし・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・けれども、今は、それ等が余り過度に根を張り、まず種を蒔いたもの――おおくの人間――自身が苦るしくてたえられない有様となって来たのではないでしょうか。どうにかして、真個の人間の生活に入らなければ生命がつづかない、これでは息がつけない、という所・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・政府や文部委員会が、こんどの議会で現実に解決する能力のないこんにちの教育問題から逃げる楯として、国宝再認識問題を過度に利用しないようにわれわれは監視しなければならない。 日本の「国宝」はあわれな歴史をもっている。明治維新の混沌期にもしフ・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・ ジイドによれば、人工的に過度に生産その他を強化する必要からである。その必要が現実にあるとして、それならその必要はどこから生じているのであろうか。ジイドは、信じられぬ程の偏執で、その必要は、スターリンの犠牲であり、欺かれたもの達であ・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・によらなければならないとすれば、歴史小説における時空的な力の過度な評価ということは、益々戒心をもって省察されなければならなくなって来る。目前の事象の圧力が人間精神の自立性に対してそのように現われているとすれば、同時に現実は複雑だからそれへの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ うなりを立てて廻転する大都会の車輪の一端に、辛くも止まって居る微細な神経は、過度な刺激で或程度にすりへらされて居ります。 そのすりへらされた神経に与える変化は、どうしても濃厚なものでなければなりません。生活に疲れた頭は決して、低声・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・デスデモーナのこの分別のない過度の従順さ、清浄さ、無邪気さ、品のよさのために、オセロの悲劇は防ぐことが出来なかった。 ルネッサンスに、こういう作品の出来ていることを、わたしたちは意味ふかくうけとらずにはいられない。ルネッサンスは婦人の人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ はる子は、千鶴子が、過度に自分の言葉に重み、完成さというようなものをつけ対手に印象を強いるような癖があるのなどもそんな故と思わぬではなかった。当然及ばぬものに向って背伸びするからと思うのであった。その日は、はる子が一緒に暮している圭子・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
出典:青空文庫