・・・なかに新聞記者が記事作成の上に加えられる不便をかこった科白がある。日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得るということは、その一面に何を暗示しているのであ・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・ 科白では、ソヴェト赤紫島万歳! と呼ぶ。だが、その「万歳」は本気にうけとれない。君等の考えている革命なんてのはこんなところだろう、と云われているような工合だ。そう考えると「赤紫島」という題も妙にこっている。 だって、赤は、赤でいい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・観えはするが科白がわからない。降参して、しまいには段々近くまで進出した。 ――電話かけて切符を届けさせることは、出来ないのか? それはしない。こんなことがあった。劇場は市じゅうとびとびだからね、いちいちそこをまわって買うのは骨なんだ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・を見ているうちに私の心をうったのは、そんな名優とか大俳優とか一生云われることのない俳優たちが、どんなに熱心に科白を云い、扮装をし、舞台に一つの創造の世界を実現させて行こうと努力しているか、ということの感動であった。更に、その感動に加えて、そ・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・これは素人の見方かもしれないが、もし、滝沢氏が弟の性格を十分人間的につかまえていて、舞台に芸術として生きたリアリティを感じて動いているのであったならばおそらく科白の間にあの人物らしい身のこなしで燃えるローソクを拾い上げ、それを消し、科白の間・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・ カッスルののこした芸術は、踊るあらゆる若者に愛されるのだ、というような科白での芸術論は、この場合、極めて非芸術的である。監督も勿論大した馬脚をあらわしているのだけれども、アステアにしろ、どうして、そこのところにこそ表現されるものとして・・・ 宮本百合子 「表現」
・・・その姿にも声にも堂々とネフリュードフの感傷をのりこえた女の力がたたえられてこそ、カチューシャが、ネフリュードフにこれから先の旅の無意味をしらせる科白に実感があり、不幸からの復活がある。この場面になると山口淑子はもう酔っぱらったり、男を罵倒し・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・撥をすてて爪弾をして居ると、何となくその音がこないだ見た紙治の科白の様にきこえる。どうしてあの時はあんな風に酔わされたのかしら、涙が出て――涙が出て恥かしいほどだったが、涙のこぼれる方がまだ好いんだ。三味線をほっぽり出して壁によっかかってあ・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫