・・・雇人に呉れてやり、お前行けと言うと、われわれの行くところでないと辞退したので、折角七円も出したものを近所の子供の玩具にするのはもったいない、赤玉のクリスマスいうてもまさか逆立ちで歩けと言わんやろ、なに構うもんかと、当日髭をあたり大島の仕立下・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・そうすれば先生のところから帰って来て後は直ぐ遊ぶことが出来るのですから、家の人達のまだ寝ているのも何も構うことは無しに、聞えよがしに復読しました。随分迷惑でしたそうですが、然し止せということも出来ないので、御母様も堪えて黙って居らしったそう・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・「そりゃあどういう理屈だネ。「一揆がはじまりゃあ占めたもんだ。「下らないことをお言いで無い、そうすりゃあ汝はどうするというんだエ。「構うことあ無えやナ、岩崎でも三井でも敲き毀して酒の下物にしてくれらあ。「酔いもしない中か・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・もっとも私の母様は御病身でございました故、子供には余り構うて呉れなかったのでございます。父様も母様も婆様のほんとうの御子ではございませぬから、婆様はあまり母様のほうへお遊びに参りませず四六時中、離座敷のお部屋にばかりいらっしゃいますので、私・・・ 太宰治 「葉」
・・・靴は昨夜の雨でとうてい穿けそうにない。構うものかと薩摩下駄を引掛けて全速力で四谷坂町まで馳けつける。門は開いているが玄関はまだ戸閉りがしてある。書生はまだ起きんのかしらと勝手口へ廻る。清と云う下総生れの頬ペタの赤い下女が俎の上で糠味噌から出・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・夫玉砕瓦全を恥ずとか何とか珍汾漢の気きえんを吐こうと暗に下拵に黙っている、とそれならこれにしようと、いとも見苦しかりける男乗をぞあてがいける、思えらく能者筆を択ばず、どうせ落ちるのだから車の美醜などは構うものかと、あてがわれたる車を重そうに・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・紙を展べて思を構うるときは自然とそう云う気合になる。この気合が彼らの人生観である。少なくとも文章を作る上においての人生観である。人生観が自然とできているのだから、自己が意識せざるうちに筆はすでに着々としてその方向に進んで行く。 彼らは何・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・「屋根へ上がっちゃ、かぼちゃになれないかな」「だっておかしいじゃないか、今頃花が咲くのは」「構うものかね、おかしいたって、屋根にかぼちゃの花が咲くさ」「そりゃ唄かい」「そうさな、前半は唄のつもりでもなかったんだが、後半に・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・そこでまあ十一月二十五日が来るまでは構うまいという横着な料簡を起して、ずるずるべったりにその日その日を送っていたのです。いよいよと時日が逼った二三日前になって、何か考えなければならないという気が少ししたのですが、やはり考えるのが不愉快なので・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・「困ったねえ、えらい人が来るんだよ。叱られるといけないからもう帰ろうか。」私が云いましたら慶次郎は少し怒って答えました。「構うもんか、入ろう、入ろう。ここは天子さんのとこでそんな警部や何かのとこじゃないんだい。ずうっと奥へ行こうよ。・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
出典:青空文庫