・・・これは文学の神様のものだから襟を正して読め、これは文学の神様を祀っている神主の斎戒沐浴小説だからせめてその真面目さを買って読め、と言われても、私は困るのである。考えてみれば、日本は明治以後まだ百年にもならぬのに、明治大正の作家が既に古典扱い・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・「――あの蓄音機は、士官学校を出て軍人を職業として選んだというただそれだけのことを、特権として、人間が人間に与え得る最大の侮辱を俺たちに与えながら、神様よりも威張ってやがる。おまけに、勝って威張るのは月並みで面白くないというので負けそう・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ そうしてみると神様は甘く人間を作って御座る。ではない人間は甘く猿から進化している。 オヤ! 戸をたたく者がある、この雨に。お露だ。可愛いお露だ。 そうだ。人間は甘く猿から進化している。 五月十二日 心細いことを書いてい・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・其処で倉蔵が「お嬢様、マア貴嬢のような人は御座りませんぞ、神様のような人とは貴嬢のことで御座りますぞ、感心だなア……」と老の眼に涙をぼろぼろこぼすことがある。 こんな風で何時しか秋の半となった。細川繁は風邪を引いていたので四五日先生・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・旅順攻撃に三万人の兵士たちを殺してしまった乃木大将はえらい神様であると教えこまれた。小学校を出てからも青年訓練所で、また、同じような思想を吹きこまれた。そして郷土の近くの士族の息子が大尉になっているのを、えらいもののように思いこまされた。・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・であったそうですが、観行院様もまた其通りの方であったので、家の様子が変って人少なになって居るに関わらず、種善院様の時代のように万事を遣って往こうというので、私は毎朝定められた日課として小学校へ往く前に神様や仏様へお茶湯を上げたりお飯を供えた・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・「天に在します神様――お助けください」 とおかあさんはいのりました。 と黒鳥の歌が松の木の間で聞こえるとともに馬どもはてんでんばらばらにどこかに行ってしまって、四囲は元の静けさにかえりました。 そこで二人は第二の門を通ってま・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・おまけに大学者で、学習院から一高、帝大とすすんで、ドイツ語フランス語、いやもう、おっそろしい、何が何だか秋ちゃんに言わせるとまるで神様みたいな人で、しかし、それもまた、まんざら皆うそではないらしく、他のひとから聞いても、大谷男爵の次男で、有・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・別段、こだわるわけではありませんが、作州の津山から九里ばかり山奥へはいったところに向湯原村というところがありまして、そこにハンザキ大明神という神様を祀っている社があるそうです。ハンザキというのは山椒魚の方言のようなものでありまして、半分に引・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・「先日、お母上様のお言いつけにより、お正月用の餅と塩引、一包、キウリ一樽お送り申し上げましたところ、御手紙に依れば、キウリ不着の趣き御手数ながら御地停車場を御調べ申し御返事願上候、以上は奥様へ御申伝え下されたく、以下、二三言、私、明けて・・・ 太宰治 「帰去来」
出典:青空文庫