・・・北さんは私をからかうように笑いながら尋ねる。 中畑さんが傍から口を出して、「そうです。」やはり笑いながら、「見渡すかぎり、みんなそうです。」少し、ほらのようであった。「けれども、ことしは不作ですよ。」 はるか前方に、私の生家の赤・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・私が顔を赤くして、もじもじしていると、隠すなよ、そこらを掻き廻したら、二十円くらいは出て来るだろう、と私に、からかうようにおっしゃるので、私は、びっくりしてしまいました。たった二十円。私は、あなたの顔を見直しました。あなたは、私の視線を、片・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・と、からかうような口調で言い熊本君の傍にある机の、下を手さぐりして、一冊の文庫本を拾い上げた。机の上には、大形の何やら横文字の洋書が、ひろげられていたのであるが、佐伯はそれには一瞥もくれなかった。「里見八犬伝か。面白そうだね。」と呟き、つっ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ふびんに思った。からかうのも、もうこの辺でよそうと思った。「君は、いくつ?」「二十三です。」ふるさとの訛がある。「若いなあ。」思わず嘆息を発した。「もういいんだ。帰ってもいいんだ。」ただ、君をおどかして見たのさ、と言おうとして、・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・ お母さんは、れいによって私をからかう。「そうでしょう? 心がこもっていますからね。でも、あたしの取柄は、アンマ上下、それだけじゃないんですよ。それだけじゃ、心細いわねえ。もっと、いいとこもあるんです」 素直に思っていることを、・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・いやに、なれなれしく、幾分からかうような口調で、そんなこと言い出した。「内藤幸吉さんを。ご存じでしょう?」「内藤、幸吉、ですか?」「ええ、そうです。」郵便屋は、もう私が知っていることにきめてしまったらしく、自信たっぷりで首肯する。・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・ 馬場は音たかく舌打ちして、「おい佐竹、からかうのはやめろ。ひとを平気でからかうのは、卑劣な心情の証拠だ。罵るなら、ちゃんと罵るがいい」「からかってやしないよ」しずかにそう応えて、胸のポケットからむらさき色のハンケチをとり出し、頸の・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・けれども、柏木の叔父さんだけは、いつまでも、うるさく私を、からかうのです。うちへいらっしゃる度毎に、三四冊の小説の御本を持って来て下さって、読め、読めと言うのです。読んでみても、私には、むずかしくて、よくわかりませんでしたので、たいてい、読・・・ 太宰治 「千代女」
・・・と欠かさず出かけますので、伯父とその女中さんとはお互い心易い様子で、女中さんが貯金だの保険だのの用事で郵便局の窓口の向う側にあらわれると、伯父はかならず、可笑しくもない陳腐な冗談を言ってその女中さんをからかうのです。「このごろはお前も景・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・どうかして間違ってこの災害にかかると、当人は冷や汗を流して辟易し、友人らはおもしろがってからかうのである。せっかくの研究が「いかもの」の烙印を押されるような気味が感ぜられるからである。それでも気の広い学者は笑って済ますが気の狭い潔癖な学者の・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
出典:青空文庫